インサイドセールスを立ち上げたものの、半年後には担当者が資料作成や問い合わせ対応の雑務に流れている。あるいは架電数だけが報告され、商談は増えないまま部署が縮小される。立ち上げの相談を受けるとき、周囲でこの結末を見たという話が必ず出てきます。
原因は運用の巧拙ではありません。そもそもインサイドセールスが機能する前提条件を満たしていない状態で置いてしまい、担当者の稼働が埋まらないまま存在意義を問われる、という順序で崩れます。手順を学ぶ前に、置くべき状況かどうかの判定が必要です。
この記事では、設置前に満たすべき条件、1人目をどこから連れてくるかの判断、立ち上げ期のKPIの置き方、最初の3ヶ月に実際に起きることを扱います。これから初めてインサイドセールスを置く企業を想定しています。
目次
インサイドセールスを置く前に満たすべき条件
必要なのは人員ではなくリードです。月間のリード数が足りない状態で置くと、担当者の稼働が埋まらず形骸化します。
インサイドセールスの初期形はSDR、つまりマーケティングが獲得したリードに対応する役割から始めるのが定石です。ということは、対応すべきリードが一定量なければ役割が成立しません。ここを確認せずに人を置くと、担当者は手が空き、やがて別の業務を引き受けるようになります。
目安を出します。1名のインサイドセールスが1日に接触できる新規リードは、丁寧に対応して10〜15件程度です。稼働の6割を新規接触に充てるとして、月間で120〜180件。この水準のリードが安定して供給されて初めて、専任1名が成立します。
| 月間の新規リード数 | 判定 | 取るべき形 |
|---|---|---|
| 30件未満 | まだ置かない | リード獲得を先に増やす。営業が直接対応する |
| 30〜100件 | 兼任で始める | マーケまたは営業の担当者が業務の一部として持つ |
| 100件以上 | 専任1名を置ける | SDR型で立ち上げる |
| 300件以上 | 複数名・分業 | SDRとBDRを分ける検討に入る |
月30件未満の段階でインサイドセールスを置くのは、順序が逆です。この状態で採用すると、担当者は1日の大半を手待ちで過ごすことになり、モチベーションが持ちません。先にリードを増やすほうが、結果的に早く商談は増えます。施策の選び方はBtoBリード獲得施策一覧で整理しています。
もう1点の前提条件は、営業が商談を受けられる状態にあることです。インサイドセールスが商談を作っても、営業の稼働が埋まっていて対応できなければ意味がありません。ボトルネックがどこにあるかを先に確認してください。
リードが足りない場合、自分から接触しにいく選択肢もあります。向き不向きの判断はBtoBのアウトバウンド営業で扱っています。
1人目をどこから連れてくるか
営業からの異動・マーケからの異動・新規採用で、立ち上がる速度と最初につまずく場所が違います。
「1〜3名でスモールスタート」という助言はよく見かけますが、その1人をどこから出すかで初動はまったく変わります。3つの選択肢にはそれぞれ得手不得手があります。
結論としては、1人目は社内から出してください。営業から出すのが最も早く、マーケから出すと連携の設計が整いやすくなります。新規採用は、社内に型がない状態では教える人がいないため放置されがちです。採用を選ぶなら、型を作った後の2人目以降にします。
営業から異動させる場合の注意点は、本人が商談を手放せないことです。有望なリードを自分で商談まで持っていってしまい、引き渡しの型ができません。評価をどこに置くかを最初に決めておきます。採用と社内調達の判断軸は採用と外注どちらが正解かでも整理しています。
SDR型から始め、役割を絞る
立ち上げ期は反響対応に限定します。新規開拓を同時に始めると、どちらも中途半端になります。
インサイドセールスにはSDRとBDRの2つの型があります。SDRはマーケティングが獲得したリードに対応する反響型、BDRは自ら企業を開拓するアウトバウンド型です。立ち上げ期はSDRに絞ります。
理由は成果の測りやすさです。反響対応であれば、渡されたリード数に対して何件が商談になったかという明確な分母があります。新規開拓は成果が出るまでの期間が長く、立ち上げ期に併走させると「何をやっているか分からない部署」になりやすくなります。
2つの型の違いと導入順はSDRとは・BDRとは?違い・KPI・導入順で詳しく扱っています。
役割を絞るとは、やらないことを決めることでもあります。立ち上げ期のインサイドセールスに、資料作成・イベント運営・問い合わせ一次対応を兼務させないでください。これらは業務としては近接していますが、引き受けた瞬間に本来の役割が薄まります。
立ち上げ期のKPI設計
最初は行動量、3ヶ月目から商談化率へ移します。行動量のまま置き続けるとテレアポ部門になります。
立ち上げ直後は商談がほとんど出ません。ここで商談数をKPIに置くと、担当者は評価されないまま数ヶ月を過ごすことになります。段階的に移すのが現実的です。
重要なのは、移行の時期を最初に決めて本人と経営に共有しておくことです。「3ヶ月目から商談化率で見る」と先に宣言しておかないと、行動量が定着してしまい、後から変えるときに反発が生まれます。
「有効商談」の定義は営業と合意しておきます。ここが曖昧だと、インサイドセールスは商談を渡したと言い、営業は商談ではないと言う状態が生まれます。定義の作り方はMQL・SQLの定義と設計方法で扱っています。全体のKPI設計との整合はBtoBマーケのKPI設計完全ガイドを参照してください。
最初の3ヶ月に実際に起きること
1〜2ヶ月目は商談がほぼ出ません。ここで撤退判断をしないよう、事前に想定を共有しておきます。
立ち上げが失敗する典型は、成果が出る前に経営から詰められて縮小されるパターンです。これは成果の問題ではなく、期待値の設定が甘かったことによります。実際の推移はおおよそ次のようになります。
1ヶ月目は環境整備とリスト整理でほぼ終わります。誰に何をどの順で連絡するか、記録をどこに残すかが決まっていないため、接触件数も伸びません。この月に商談を期待しないでください。
2ヶ月目から接触件数が安定し始めます。商談は出始めますが、営業から「これは商談ではない」と返されることが増えます。ここは失敗ではなく、有効商談の定義をすり合わせる工程です。
3ヶ月目で渡し方の型ができ、商談化率が読めるようになります。ここまで来て初めて、次の打ち手が判断できるようになります。
立ち上げの意思決定をする前に、この3ヶ月の推移を経営と共有してください。1ヶ月目の数字だけで判断されると、ほぼ確実に撤退の話が出ます。
3ヶ月経っても接触件数が伸びない場合は、リードの供給量か、リストの質のどちらかに原因があります。担当者の頑張りの問題として扱わないでください。
設置後に成果が出ない場合の切り分けはインサイドセールスが機能しない理由で扱っています。最も多い原因は組織設計ではなく、架電できる対象が足りていないことです。
マーケ・営業との接続を先に決める
インサイドセールスは前後の部署と繋がって初めて機能します。受け渡しの基準を立ち上げ前に決めます。
インサイドセールスは単独では成立しない役割です。マーケティングからリードを受け取り、営業に商談を渡す。この2つの接続点のルールを先に決めておきます。
- マーケから受け取る基準:どの状態のリードを渡すか。全件か、条件を満たしたものだけか
- 受け取ってから接触するまでの時間:即日か、翌営業日までか
- 営業に渡す基準:何を確認できたら商談として渡すか。予算・決裁権・課題・時期のどこまでを必須にするか
- 渡した後の扱い:営業が商談化しなかった場合、インサイドセールスに戻すのか、そこで終了か
- 記録の置き場所:接触履歴をどこに残すか。ここが揃っていないと引き継ぎができません
4つ目の「戻す設計」が抜けている組織が多く見られます。営業が商談化しなかったリードを誰も追わなくなり、リードが消えていきます。
接続の作り方はインサイドセールスとマーケティングの連携とマーケ・セールス連携の仕組み作りで詳しく扱っています。商談化しなかったリードを再度育てる設計はナーチャリングのシナリオ設計が参考になります。
立ち上げの体制や時期について判断に迷う場合は、現在のリード数と営業体制を前提にご相談いただけます。
記録の置き場所となるCRMの設計はCRM導入が失敗する原因で扱っています。項目を増やしすぎると、ここでも入力されなくなります。
初回接触の設計
最初の1分で何を話すかを決めます。ここが定まらないと、担当者ごとに結果がばらつきます。
インサイドセールスを立ち上げると、必ず「何を話せばよいか」という問題に突き当たります。台本を作らないまま始めると、担当者の経験値に結果が依存し、うまくいかない理由も分析できません。完璧な台本は不要ですが、骨格は決めておきます。
冒頭で名乗る内容を固定する
電話でもメールでも、最初に伝えるのは「なぜ連絡したか」です。「先日資料をダウンロードいただいた件で」という接点の明示から入ります。ここが曖昧だと、営業電話として処理されて終わります。
資料の名前まで具体的に言うと、相手は自分の行動を思い出せます。「マーケティング組織の立ち上げに関する資料をダウンロードいただいた件で」と言えば、その資料に関心があった前提で会話が始まります。逆に「弊社のサービスのご案内で」と切り出すと、そこで断られます。
売り込まず、状況を聞く
初回接触の目的は商談の獲得ですが、最初から商談を打診すると断られます。まず相手の状況を確認します。聞くべきは3点です。
- 資料をダウンロードした背景:何を調べていたのか。ここに課題が現れます
- 現在の状況:すでに何かに取り組んでいるか、これから検討する段階か
- 社内の状況:担当者本人が決められるのか、上長の判断が要るのか
3つ目を初回で確認しておくと、その後の進め方が変わります。決裁者が別にいるのであれば、担当者が社内で説明するための材料を渡す方向に切り替えます。ここを聞かずに商談を打診すると、担当者だけが出てきて話が進まない商談になります。
商談を打診する基準を決める
会話の中でどの条件が満たされたら商談を打診するのかを、事前に決めておきます。課題が具体的に語られた、検討時期が半年以内である、担当者が決裁に関与している。このうち2つが確認できたら打診する、といった形です。
基準がないと、担当者ごとに打診のタイミングがばらつき、営業に渡る商談の質も揃いません。基準は営業と合意したうえで決めてください。設計の考え方はMQL・SQLの定義と設計方法で扱っています。
断られた相手を記録する
今は必要ないと言われた相手も、時期が来れば検討します。断られた理由と、次に連絡してよい時期を記録しておいてください。3ヶ月後、半年後の再接触は、新規リストへの接触より確度が高くなります。
記録する理由は3つに分類できれば十分です。時期が合わない、予算がない、そもそも対象外。時期が合わないだけであれば再接触の対象になり、対象外であればリストから外せます。この分類がないと、毎回すべてのリストに同じ接触を繰り返すことになります。
台本は運用しながら育てる
最初に作った台本が正しいことはありません。実際に話してみて、どこで相手の反応が変わるか、どの質問が答えにくいかを記録し、月に1回見直します。担当者が複数いる場合は、うまくいった会話の内容を共有する場を作ってください。
記録するツールの最小構成
立ち上げ時に高機能なツールを導入する必要はありません。必要なのは、誰にいつ何を話したかが残ることと、次のアクションの期日が管理できることの2点です。
CRMがすでにあるなら、その中で完結させてください。専用ツールを別に入れると、情報が分散して営業への引き渡しが煩雑になります。ツールがない場合でも、表計算ソフトから始めて問題ありません。件数が増えて管理が破綻してから移行を検討すれば十分です。
記録の項目も最小限に絞ります。接触した日、手段、相手の反応、次のアクションと期日。この4つがあれば引き継ぎは可能です。項目を増やすほど記録されなくなるのは、CRMの設計と同じ構造です。
録音や録画を残すかは、立ち上げ期であれば有効です。担当者が1人しかいない段階では、自分の会話を後から聞き直すことが唯一の改善手段になります。相手の許可を取ったうえで運用してください。
まとめ
インサイドセールスの立ち上げで押さえるべき点を整理します。
- 月間の新規リードが30件未満なら、まだ置かない。先にリード獲得を増やす
- 専任1名が成立するのは月100件以上。30〜100件の間は兼任で始める
- 1人目は社内から出す。営業からが最も早く、マーケからは連携の設計に強い。新規採用は型ができてから
- 立ち上げ期はSDR型に絞る。新規開拓の併走と、資料作成などの兼務をさせない
- KPIは行動量から始め、3ヶ月目に商談化率へ移す。移行時期を最初に宣言しておく
- 1〜2ヶ月目は商談がほぼ出ない。この推移を事前に経営と共有する
- マーケからの受け取り基準と営業への引き渡し基準を、立ち上げ前に決める
立ち上げの成否は、置いた後の運用より前に決まっています。リードの供給量と受け渡しの基準さえ整っていれば、担当者は自然に成果を出せる状態になります。
立ち上げのご相談
置くべきか、まだ早いかの判断からご相談いただけます
「インサイドセールスを検討しているが時期が分からない」「置いたが形骸化している」といった状態を、リード供給量と営業体制の実態から具体化します。まだ検討段階でも問題ありません。
よくある質問
- インサイドセールスは何名から始めるべきですか。
- 月間の新規リード数で決まります。100件以上あれば専任1名、30〜100件であれば兼任で始めます。30件未満の段階では置かず、先にリード獲得を増やしてください。人数を先に決めると、稼働が埋まらないまま形骸化します。
- 1人目は採用すべきですか、社内から出すべきですか。
- 社内から出してください。営業からの異動が最も立ち上がりが早く、マーケからの異動は連携の設計に強くなります。新規採用は、社内に型がない状態では教える人がおらず放置されがちです。採用は型ができた後の2人目以降が現実的です。
- 立ち上げ期のKPIは何を置けばよいですか。
- 1〜2ヶ月目は接触件数と接続率という行動量、3〜4ヶ月目から商談化率と有効商談数、5ヶ月目以降は受注につながった商談数へ移します。重要なのは移行時期を最初に宣言しておくことです。行動量のまま固定すると、テレアポ部門と見なされるようになります。
- 立ち上げてから成果が出るまでどのくらいかかりますか。
- 商談化率が読めるようになるまで3ヶ月を見てください。1ヶ月目は環境整備とリスト整理でほぼ終わり、2ヶ月目に商談が出始めますが営業から差し戻されることが増えます。この推移を事前に経営と共有しておかないと、1ヶ月目の数字で撤退の話が出ます。
- SDRとBDRはどちらから始めるべきですか。
- SDR、つまり反響対応から始めます。渡されたリード数という明確な分母があるため成果を測りやすく、立ち上げ期の評価に耐えます。BDRの新規開拓は成果が出るまでの期間が長く、立ち上げと同時に始めると何をしている部署か分からなくなります。