MAツールに数千件のコンタクトがあるが、同じ人が複数のレコードで登録されている。同じ会社が「株式会社◯◯」と「◯◯」で別々に存在している。この状態では配信も分析も正確にできず、営業に渡すリードの精度も上がりません。
ただし名寄せは、着手すると終わりが見えなくなる作業でもあります。完全に統合された状態を目指すと、判定が難しいレコードが必ず残り、そこで作業が止まります。先に決めるべきは、やり方ではなくどこまでやるかです。そして事後の統合より効くのは、そもそも重複を作らない入口の設計です。
この記事では、名寄せが必要になる場面、どのレベルまでやるかの判断、日本語の企業名でつまずくポイント、作業の進め方、そして重複を作らない設計までを扱います。数千件規模のデータを扱う企業を想定しています。
目次
名寄せが必要になる場面
ツールの導入・移行時と、データを使って判断を始めるときに顕在化します。
名寄せは日常業務として発生するものではなく、特定の場面で必要になります。
- CRMやMAツールを新しく導入するとき:複数の場所に散らばったデータを1か所に集める段階で、重複が可視化されます
- ツールを乗り換えるとき:移行の前に整理しないと、重複を新しい環境に持ち込みます
- 展示会やウェビナーで大量のリードを取得したとき:既存のデータベースとの重複が一気に増えます
- 配信の効果を測ろうとしたとき:同じ人に複数回配信されている状態では、開封率も配信到達率も正確に出ません
- 営業に渡す基準を作ろうとしたとき:同じ企業が複数レコードにあると、どれを見て判断するかが定まりません
いずれの場面でも、名寄せそのものが目的ではありません。何かを判断したい、あるいは何かを動かしたいときに、データの状態が邪魔をしているという構造です。したがって着手する前に、何のために整理するのかを確認してください。
「いつか使うかもしれないから綺麗にしておく」という動機で始めると、作業が終わりません。目的が決まっていれば、どこまでやれば足りるかも決まります。
CRM導入時に何を見たいかから設計する考え方はCRM導入が失敗する原因で扱っています。名寄せもこの延長線上にあります。
完璧を目指さない|どこまでやるかを先に決める
3つのレベルがあり、目的によって必要な深さが変わります。
名寄せには段階があります。すべてを最上位まで持っていく必要はありません。
| レベル | やること | これで足りる目的 |
|---|---|---|
| 1 個人の重複解消 | 同じメールアドレスのレコードを統合する | メール配信、開封率の計測 |
| 2 企業の名寄せ | 表記ゆれを揃え、企業単位でまとめる | 企業単位の商談管理、営業への引き渡し |
| 3 接点履歴の統合 | 過去のやり取りを1本の時系列にまとめる | 商談前の背景把握、精緻な分析 |
レベル1は機械的に処理できます。メールアドレスは一意なので、完全一致で判定すれば迷いが生じません。多くの企業では、まずここだけやれば当面の問題は解消します。
レベル2から判断が必要になります。「株式会社◯◯」と「◯◯株式会社」は同じ企業ですが、「◯◯商事」と「◯◯商事ホールディングス」は別法人かもしれません。ここで完全な自動化は難しくなります。
レベル3は工数が最も大きく、しかも得られる価値は限定的です。過去の接点履歴を完全に統合しても、実際に見返されるのは直近数ヶ月分であることがほとんどです。ここに着手するのは、レベル1と2が終わってからで構いません。
まずレベル1だけを完了させてください。メールアドレスの重複を消すだけで、配信と計測の問題は大部分が解消します。ここで一度止めて、残る不便を確認してから次に進みます。
数千件規模であれば、レベル1は表計算ソフトでも数時間で終わります。ツールの導入を検討するのは、この作業を繰り返し実行する必要が出てからです。
日本語の企業名でつまずくポイント
表記ゆれのパターンは限られています。先に正規化のルールを決めます。
企業名の名寄せが難しいのは、同じ企業名に複数の書き方が存在するためです。ただしパターンは限られているので、ルールを決めれば大部分は機械的に処理できます。
1から3までは機械的に処理できます。法人格を除去し、半角に統一し、空白と記号を除いた文字列で比較すれば、大部分の表記ゆれは吸収されます。この正規化した文字列を比較用の項目として別に持っておくと、以降の判定が楽になります。
4と5は人の判断が必要です。特に5の誤統合は取り返しがつきません。統合したレコードを元に戻すのは、多くのツールで困難です。判定に迷ったら統合しないという原則を持ってください。重複が残るほうが、別の企業を1つにまとめてしまうより害が小さくなります。
なお、法人番号が取得できている場合は、それを一意のキーにできます。公開情報から照合できるため、精度の高い判定が可能です。ただし入力項目に法人番号を加えると入力負荷が上がるため、フォームで取得するのは現実的ではありません。既存データの整理に使う手段として考えてください。
作業の進め方
バックアップを取り、判定ルールを決め、機械処理と目視を分けて進めます。
実際の作業は次の順序で行います。数千件であれば、レベル1と2で1日から2日程度が目安です。
- 作業前のデータを丸ごと書き出す:統合は元に戻せないため、必ずバックアップを取ります。これを省略しないでください
- 判定ルールを文書にする:どの項目が一致したら同一と見なすか、迷ったときはどうするかを先に決めます
- 正規化した比較用の項目を作る:企業名から法人格・空白・記号を除いた文字列を、別の列として持ちます
- 機械的に判定できるものを処理する:メールアドレス完全一致、正規化した企業名の完全一致など
- 判定が割れたものを一覧にする:機械では決められなかったレコードを別に出します
- 一覧を目視で判断する:ここは人がやるしかありません。件数が多ければ、優先度の高いものだけに絞ります
- 統合してから確認する:件数が想定通り減っているか、必要なデータが消えていないかを見ます
6の目視作業をすべて終わらせようとしないでください。判定が割れるレコードは、商談中の企業や直近で接点があった企業を優先し、それ以外は保留にします。保留にしたレコードは、次に接点が生じたときに判断すれば足ります。
ツール側に重複検出の機能がある場合は、そちらを使うほうが早くなります。HubSpotでの実務手順はHubSpotデータ整備の進め方で扱っています。
重複を作らない設計に切り替える
事後の名寄せより、入口で重複を防ぐほうが効きます。
ここが本題です。名寄せを一度やっても、入口の設計が変わらなければ半年後には同じ状態に戻ります。作業を繰り返すより、重複が発生しない仕組みに切り替えてください。
メールアドレスを一意のキーにする
最も効果が大きい対策です。フォーム送信時に、既存のレコードと同じメールアドレスであれば新規作成せず既存を更新する設定にします。多くのMAツールとCRMには標準でこの機能があり、設定を有効にするだけで済みます。
あわせて、フォームの入力項目を減らすことも重複の抑制につながります。項目が多いと、同じ人が入力を面倒がって別のアドレスで送るということが起こります。項目設計の考え方はBtoBの問い合わせフォーム改善で扱っています。
一括取り込みの前に照合の工程を入れる
展示会で獲得した名刺を一括で取り込むと、既存顧客のレコードが二重に作られます。取り込み前に既存データと照合する工程を挟んでください。数百件であれば、表計算ソフトでメールアドレスを突き合わせるだけで済みます。
展示会の運用に組み込む形にすると、忘れずに実行できます。獲得後の設計はBtoB展示会の出展準備で扱っています。
営業が新規作成する前に検索させる
営業が商談相手をシステムに登録するとき、既存レコードを探さずに新規作成することがあります。これは怠慢ではなく、探すより作るほうが早いという判断です。ツール側で重複を警告する設定があれば有効にし、なければ「作成前に検索する」を運用ルールとして明示してください。
外部リストを使ったアプローチ全体の設計はBtoBのアウトバウンド営業で扱っています。
運用でカバーする範囲
完全な統合を目指さず、判断に支障が出ない状態を保ちます。
入口を整えても、重複はゼロにはなりません。残った重複を運用でどう扱うかを決めておきます。
定期的に確認する日を決める。四半期に1回、重複の件数を確認します。増え方を見れば、入口のどこが機能していないかが分かります。件数だけ見れば十分で、毎回すべてを解消する必要はありません。
商談が発生した時点で解消する。すべてのレコードを整理するのではなく、商談になった企業だけを確実に整えます。商談中の企業のデータが二重になっていると実害が出ますが、5年前に一度資料をダウンロードしただけの企業の重複は、実務上の影響がほとんどありません。
配信前に除外する。メール配信の直前に、同一アドレスを除いてから送る運用にします。データベース上は重複が残っていても、配信の実害は防げます。
この3つを回していれば、データが完全でなくても判断はできます。名寄せに完璧を求めるより、判断に支障が出ない状態を保つほうが現実的です。
データの状態が計測にどう影響するかはBtoBマーケの効果測定、営業に渡す基準との関係はMQL・SQLの定義と設計方法で扱っています。
自社のデータ状況をどう整理すべきか相談したい場合は、現在のツール構成とデータ量を前提にご相談いただけます。
誰がやるかを決めておく
名寄せが放置される理由の多くは、担当が決まっていないことです。マーケティングと営業のどちらの業務でもあり、どちらの担当でもないという状態が続きます。
原則として、データベースを一番使う人が持ってください。配信を回している担当がいるならその人、営業管理が中心ならそちらです。兼務でも構いませんが、「四半期に1回、重複件数を確認する」という具体的な作業として業務に入れてください。件数を確認するだけなら30分で終わります。
削除ではなく統合する
重複を見つけたとき、片方を削除したくなります。しかし削除すると、そのレコードに紐づいていた接点履歴や商談の記録も一緒に失われることがあります。ツールに統合の機能があるなら、必ずそちらを使ってください。
統合では、どちらのレコードを残すかを選びます。基準は「新しいほう」ではなく「情報が多いほう」です。古いレコードのほうが商談履歴を持っている場合、そちらを主として残し、新しい情報を上書きする形にします。
データの持ち方を先に決める
そもそも項目の設計が曖昧だと、同じ情報が別の場所に入ります。部署名を「部署」に入れる人と「備考」に入れる人がいれば、後から揃えるのは困難です。
項目は少ないほうが揃います。使わない項目は作らない、選択式にできるものは自由入力にしない、という2点を守るだけで、データの状態は大きく変わります。何を判断したいかが決まっていれば、必要な項目も自然に絞られます。
整備しすぎない
最後に注意点を一つ。データ整備は成果が見えやすく、進めている実感が得られる作業です。そのため、本来やるべき施策より優先されてしまうことがあります。
データが多少汚れていても、施策は打てます。逆に、完璧なデータベースがあっても施策を打たなければ商談は増えません。判断に支障が出ている部分だけを直し、それ以外は保留にしてください。整備に半年かける価値がある企業は、実際にはほとんどありません。
まとめ
リードの名寄せと重複管理で押さえるべき点を整理します。
- 名寄せは目的が決まってから着手する。「いつか使うから綺麗にする」では終わらない
- まずレベル1(メールアドレスの重複解消)だけを完了させる。配信と計測の問題は大部分が解消する
- 企業名の表記ゆれは、法人格・全角半角・空白記号の3つを正規化すれば大部分が吸収できる
- 似た社名の別法人は機械判定しない。迷ったら統合しないという原則を持つ
- 作業前に必ずバックアップを取る。統合は元に戻せない
- 目視判定は全件やらない。商談中と直近接点のある企業を優先する
- 事後の名寄せより、入口で重複を防ぐほうが効く。メールアドレスを一意キーにする設定が最優先
- 完全な統合を目指さず、判断に支障が出ない状態を保つ
データ整備は目的ではなく手段です。何を判断したくて整理するのかが決まっていれば、どこで止めてよいかも決まります。
データ整備のご相談
どこまでやるかの判断からご相談いただけます
「重複が多くて配信も分析も信用できない」「整理したいがどこから手を付けるか分からない」といった状態を、ツール構成とデータ量から具体化します。件数が少ない段階でも問題ありません。
よくある質問
- 名寄せはどこまでやるべきですか。
- まずメールアドレスの重複解消(レベル1)だけを完了させてください。これだけで配信と計測の問題は大部分が解消します。企業単位の名寄せ(レベル2)は営業への引き渡しを企業単位で管理したい場合に、接点履歴の統合(レベル3)は工数が大きく得られる価値も限定的なので、前の2つが終わってから検討してください。
- 企業名の表記ゆれはどう処理しますか。
- 法人格(株式会社、(株)、㈱)を除去し、全角を半角に統一し、空白と中黒などの記号を除いた文字列を比較用の項目として別に持ってください。この3つの正規化で大部分の表記ゆれは吸収できます。ただし「◯◯商事」と「◯◯商事ホールディングス」のような似た社名の別法人は機械判定せず、人が確認してください。
- 統合を間違えた場合、元に戻せますか。
- 多くのツールで統合の取り消しは困難です。そのため作業前に必ずデータを丸ごと書き出してバックアップを取ってください。また判定に迷ったら統合しないという原則を持つことをおすすめします。重複が残るほうが、別の企業を1つにまとめてしまうより害が小さくなります。
- 名寄せしても、また重複が増えてしまいます。
- 入口の設計が変わっていないためです。最も効果が大きいのは、フォーム送信時にメールアドレスが一致したら新規作成せず既存を更新する設定です。多くのMAツールとCRMに標準機能があります。加えて、名刺や外部リストの一括取り込み前に既存データと照合する工程を挟んでください。
- ツールを導入すべきですか。
- 数千件規模であれば、まずは表計算ソフトで足ります。メールアドレスの重複解消は数時間で終わります。ツールの導入を検討するのは、この作業を繰り返し実行する必要が出てからです。ただし使用中のCRMやMAツールに重複検出の機能があるなら、それは最初から使ってください。