BtoBの訴求設計|差別化できない場合の作り方とメッセージ階層

BtoBの訴求設計|差別化できない場合の作り方とメッセージ階層

広告のコピーを変えても反応が変わらない。ランディングページを作り直しても問い合わせが増えない。営業資料の見た目は整っているのに、商談で相手の反応が薄い。個別の施策を改善しても成果が動かないとき、原因は施策ではなく訴求にあります。

訴求設計というと、バリュープロポジションのフレームワークが紹介されます。顧客が求めるもの、自社が提供できるもの、競合が提供できないもの。この3つの重なりを探すという考え方です。ただしこのキャンバスを埋めても、実務で使えるメッセージにはなりません。埋めた紙を見ながら「では広告の見出しは何にするのか」と聞くと、答えが出てこないためです。

広告やランディングページを直しても成果が動かないとき、訴求の材料は自社の側ではなく、受注顧客の言葉の中にあります。受注顧客が自社を選んだ理由をその人の言葉で集められれば、差別化の要素が見つからない場合でも訴求を組み立てられ、相手ごとの言い換えも同じ材料から作れます。

訴求が決まっていない状態の症状

訴求が決まっていないと、広告・サイト・営業資料で同じ商材の説明が食い違い、商談で「で、何が違うの」と聞かれる形で表面化します。

訴求が定まっていない企業には、共通する症状があります。マーケティング担当が自社の広告の見出し、サイトのトップ、営業資料の1枚目を横に並べてから、次の5つに当てはまるか確認してください。

  • 媒体ごとに違うことを言っている:広告では「コスト削減」、サイトでは「業務効率化」、営業資料では「DX推進」と、同じ商材の説明が場所によって変わります
  • 機能の説明から始まる:何ができるかは書いてあるが、誰のどんな状況で役立つのかが書かれていません
  • 競合と入れ替えても成立する:自社名を競合名に置き換えても文章が通ってしまいます
  • 担当者が変わると表現が変わる:判断の基準が個人の中にあり、共有されていません
  • 「で、何が違うの」と聞かれる:商談で必ずこの質問が出て、その場で説明を組み立てています

5つの症状は、どれも施策の質の問題ではありません。何を伝えるかが決まっていないため、伝え方をいくら磨いても届かないという構造です。広告の運用改善やLPの改修に投資する前に、訴求が決まっているかを確認してください。

逆に訴求が定まると、施策側の判断が速くなります。この見出しでいいか、この機能を推すべきか、という問いに基準ができるためです。BtoBマーケティングの戦略を立てるときも、チャネルや予算の配分より先に訴求を固めてください。

3要素とキャンバスの限界

3要素の重なりを探す枠組みは整理には役立ちますが、埋めた結果が抽象的な言葉で止まり、広告や営業資料の文言にならない点が限界です。重なりを見つける作業と、言葉にする作業は別の工程です。

バリュープロポジションは一般に、次の3つの重なりとして説明されます。

顧客が求める 自社が出せる 競合が出せない 重なり ここまでは埋められる 「導入と運用の両方を支援できる」 ここで止まる。顧客に届く言葉になっていない
図1:3要素の重なりと、その先の言語化

枠組み自体は正しく、整理には役立ちます。問題は、埋まった結果が「導入と運用の両方を支援できる」「業界特化のノウハウがある」といった抽象的な言葉になりやすいことです。この状態では、広告の見出しにも営業資料の1枚目にも使えません。

止まる理由は2つあります。1つは社内の言葉で埋めていること。会議室で自社の強みを挙げると、提供者側の語彙になります。もう1つは、抽象度を1段下げる工程が省略されていること。「業界特化」で止めず、「その業界の何がどう違うから、顧客の何が変わるのか」まで下ろす必要があります。

埋めた内容を、そのまま広告の見出しにできるか試してください。使えないなら、まだ抽象度が高すぎます。この確認を挟むだけで、作業が紙の上で終わることを防げます。

顧客の言葉から作る

受注理由、失注理由、問い合わせフォームの自由記述、商談冒頭の説明から顧客が実際に使っている言葉を集め、その言葉で訴求を書きます。社内で考えた強みと、顧客が評価している点はずれていることが多いためです。

訴求の材料は社内ではなく顧客側にあります。既存顧客が実際に使っている言葉を集めてください。

どこから集めるか

  • 受注時の会話:「なぜ発注を決めたか」を、受注直後に聞きます。時間が経つと理由が整理されて綺麗になり、生々しさが失われます
  • 失注時の理由:選ばれなかった理由には、自社が訴求できていない点が現れます
  • 問い合わせフォームの自由記述:顧客が自分の課題をどう表現しているかが、そのまま残っています
  • 商談の冒頭:相手が現状を説明する部分に、課題の言い方が出ます

集めた言葉と、自社が使っている言葉を並べてみてください。例えば次のようなズレが見つかります。

自社が使っている言葉顧客が使っている言葉
マーケティングの内製化支援社内に分かる人がいない
データドリブンな意思決定数字を見ても何をすればいいか分からない
リードナーチャリングの設計問い合わせは来るが商談にならない
業務プロセスの標準化担当が辞めたら回らなくなる

左は提供者の語彙、右は当事者の語彙です。検索されるのも、広告で反応するのも右側です。左側の言葉は、右側を説明した後の補足として使ってください。

顧客の言葉を集める工程は、ICPやペルソナの整理と同じ材料を使います。まだ手をつけていない場合はICPの設定方法、より個人の状況まで踏み込む場合はBtoBペルソナの作り方を先に確認してください。

過去の商談録画が残っているなら、そこからも同じ材料が取れます。営業と一緒に直近の録画を数本見返し、商談録画の活かし方の手順で顧客が使った言い回しを書き出します。

差別化できる要素が見つからない場合

無理に差別化点を作らず、対象を狭める、課題の描写を具体的にする、提供の仕方で差をつける、の3つで選ばれる理由を作ります。成熟したカテゴリでは、固有の強みが見つからないのは普通のことです。

差別化できる要素探しは、訴求設計で最も詰まる工程です。3要素の枠組みは「競合が提供できないもの」を求めますが、探しても見つからないことがあります。同じような機能、同じような価格帯、同じような実績。これは珍しい状況ではなく、成熟したカテゴリでは普通のことです。

差別化点が見つからなくても、無理に作ろうとしないでください。実態のない差別化を打ち出すと、商談で確認された時点で崩れます。代わりに次の3つで勝負します。

1. 対象を狭める

提供内容が同じでも、対象を絞れば固有性が生まれます。「BtoB企業向け」ではなく「創業5年以内でマーケ担当が1人の企業向け」まで狭めると、競合の一般的な訴求より具体的になります。狭めることで市場が小さくなるのを恐れる声がありますが、誰も問い合わせない訴求のほうが機会損失は大きくなります。

2. 課題の描写を具体的にする

同じことを提供していても、課題の描写が具体的であれば「この会社は分かっている」と伝わります。「業務効率化を支援します」ではなく、「担当者が毎週金曜に手作業でレポートを作っている状態を解消します」と書く。これは差別化ではなく理解度の提示ですが、選ばれる理由としては十分に機能します。

3. 提供の仕方で差をつける

内容が同じでも、届け方には差が出せます。着手までの期間、担当者の関わり方、契約の柔軟性、報告の頻度。顧客が発注時に不安に感じる点を潰す設計は、機能の差より発注の決め手になることがあります。

「業界No.1」「豊富な実績」といった表現は差別化になりません。競合も同じことを書いており、読み手はどれも同じに見えます。数字で裏付けられない優位性の主張は、訴求から外してください。

対象の絞り込み、課題の描写、提供の仕方の3つはいずれも、顧客の言葉を集めていないと書けません。顧客の言葉を集める工程を飛ばして差別化だけを考えると、また社内の語彙に戻ります。

1文で終わらせず階層にする

訴求は、社内の判断基準になる1文、課題の種類ごとの訴求3〜5個、広告やLPで使う実際の文言の3階層に分けます。全社の1文をすべての施策に貼り付けると、どの施策でも中途半端になります。

バリュープロポジションは1文で表現するものとされますが、その1文をそのまま広告にもLPにも営業資料にも使うと、どれも中途半端になります。抽象度の違う3つの層に分けてください。

第1層 全社の1文 誰の、どんな状態を、どう変えるか 社内の判断基準。滅多に変えない そのまま外に出す文ではない 第2層 テーマごとの訴求 課題の種類ごとに言い換える 3〜5個。サービスの区分ではなく 顧客が抱える課題の区分で分ける 第3層 施策ごとの文言 広告の見出し、LPの一行目、資料の表紙 ここだけは自由に検証する。ただし 第2層から外れていないかを確認する
図2:訴求の3階層

第1層は社内向けです。判断に迷ったときに立ち返る基準であり、そのまま顧客に見せる文ではありません。ここを整えることに時間をかけすぎないでください。

第2層が実務で最も使われます。顧客が抱える課題の種類ごとに、3つから5つの訴求を用意します。分け方の注意点は、サービスの区分ではなく課題の区分で分けることです。「コンサルティング」「運用代行」ではなく、「担当者がいない」「数字が読めない」「商談にならない」といった区分にします。

第3層は検証の対象です。広告の見出しやLPの1行目は、実際の反応を見て変えていきます。例えば広告担当が月末に見出しごとの商談化率を確認し、低いものを差し替えます。ただし変える範囲は第2層の中に収めてください。反応が良いからといって第2層から外れた訴求を続けると、獲得したリードの質が下がります。

第3層を作る段階では、第2層の範囲の中でランディングページの構成、広告文、営業資料を書き分け、反応を比べます。

相手ごとに訴求を変える

外向けの訴求は情報を集める現場担当に向け、決裁者には事例や試算資料といった説明材料を別に用意します。同じ商材でも、現場担当と決裁者では判断に使う情報が違うためです。

BtoBでは複数の人が意思決定に関わります。全員に同じ訴求を出しても、それぞれの関心に合いません。最低限、次の2者は分けてください。

現場担当決裁者
関心自分の業務がどう変わるか投資に見合う成果が出るか
不安使いこなせるか、負荷が増えないか失敗したときの責任
反応する訴求具体的な作業の削減、運用の負担成果の見込み、他社の実績、撤退の容易さ
届く場所検索、ウェビナー、比較サイト社内からの提案、紹介、事例

実務上は、現場担当が情報を集めて社内で提案する流れが多くなります。したがって外向けの訴求は現場担当に向け、そこから決裁者に説明するための材料を別に用意する形が有効です。事例や試算資料がその材料にあたります。決裁者に渡す材料が手元にないなら、導入事例を1本作るところから始めます。

誰がどの段階で何を見るかを整理する場合は、カスタマージャーニーマップの作り方が使えます。

商材が複数ある場合は、会社の訴求を上に置き商材の訴求をその下に並べます。商材ごとの訴求が会社の訴求と食い違ってきたら、複数商材を持つ会社の訴求の置き方に沿って上下の関係を決め直します。

作った訴求を検証する

訴求は、広告の見出しへの反応、商談冒頭での相手の反応、失注理由の変化の3つで確かめます。社内の会議で合意しただけでは完成しません。

検証は、結果が早く出る順に次の3つで進めます。

  1. 広告の見出しで試す:最も速く結果が出ます。同じ商材で訴求だけを変えた広告文を2つから3つ出し、反応の差を見ます
  2. 商談の冒頭で使ってみる:相手の反応が変わるかを営業に確認します。「それです」と言われる訴求は、顧客の言葉に近い訴求です
  3. 失注理由と突き合わせる:訴求を変えた後、失注の理由が変わったかを見ます。理由が同じなら訴求は届いていません

広告の見出しで試す場合は、獲得数だけで判断しないでください。反応が多くても商談にならない訴求は、対象がずれています。商談化率まで見て評価します。商談化率まで追うには、効果測定の仕組みで広告のクリックから商談までを紐づけておく必要があります。

また、一度決めた訴求を長く固定しすぎないでください。市場の状況や競合の打ち出しが変われば、有効な訴求も変わります。第2層は年に1回、第3層は四半期ごとに見直す程度の頻度が実務上の目安です。第1層は数年単位で構いません。

自社の訴求が定まっているか、施策と噛み合っているかを確認したい場合は、現在の打ち出しと商談の状況を前提にご相談いただけます。

訴求を社内で共有する

訴求を決めても、共有されていなければ意味がありません。広告の担当、サイトの担当、営業がそれぞれ別の言葉を使っていれば、決める前と同じ状態です。

共有の方法は簡単で構いません。第2層の訴求3〜5個を、実際に使う文例つきで1枚にまとめてください。抽象的な方針だけを共有しても、現場では使えません。「この課題にはこう書く」という文例まで揃っていると、担当者が変わっても表現が揺れなくなります。

あわせて、使わない言葉も決めておきます。「業界No.1」「豊富な実績」「ワンストップ」のような、競合と同じことしか言っていない表現を禁止語として並べておくと、原稿の品質が安定します。

営業からのフィードバックを回す

訴求が届いているかを最も早く知れるのは営業です。商談で相手の反応が良かった説明、逆に反応が薄かった説明を、月に1回でよいので集めてください。

形式を作り込む必要はありません。「今月の商談で相手の反応が良かった言い回し」を数行書いてもらうだけで、第2層の見直し材料になります。マーケティングが作った訴求を営業に配って終わりにせず、営業が現場で使った言葉を吸い上げる方向の流れも作ってください。この双方向の流れがないと、訴求は徐々に現場と乖離していきます。

なお訴求の決定そのものは、生成AIに任せない工程です。生成AIには言い換え案の書き出しを任せ、採る1文は顧客の言葉を聞いた人が決めます。マーケ業務の生成AI活用で任せる範囲を決めるときも、訴求の決定は人の側に残してください。

訴求が固まったら、比較の場面で同じ言葉が通用するかを確かめる段階に進みます。検証の場として使えるのが比較コンテンツで訴求を検証するという進め方です。

まとめ

判断の結論は次のとおりです。

  • 媒体ごとに言うことが違う、競合と入れ替えても成立する、という状態は訴求が決まっていない症状
  • バリュープロポジションのキャンバスは整理には役立つが、埋めただけでは広告の見出しに使えない
  • 訴求の材料は社内ではなく顧客側にある。受注理由、失注理由、フォームの自由記述から言葉を集める
  • 提供者の語彙ではなく、当事者の語彙で書く。検索も広告の反応も後者で起きる
  • 差別化できる要素がない場合は、対象を狭める・課題の描写を具体的にする・提供の仕方で差をつける
  • 実態のない差別化を打ち出さない。商談で確認された時点で崩れる
  • 訴求は3階層に分ける。全社の1文をすべての施策に貼り付けない
  • 現場担当と決裁者では判断に使う情報が違う。外向けは現場担当、決裁者向けは説明材料を別に用意する
  • 会議で決めず、広告の反応と商談での手応えで検証する

次にやることは、直近の受注案件5件について「なぜ発注を決めたか」を顧客の言葉のまま書き出し、自社の広告の見出しと並べることです。完璧な1文を作るより、施策に落として反応を見られる状態まで下ろすことを優先してください。

訴求設計のご相談

何を伝えるかの整理からご相談いただけます

「施策を改善しても反応が変わらない」「競合との違いを聞かれると答えに詰まる」といった状態を、既存顧客の受注理由から具体化します。まだ整理できていない段階でも問題ありません。

よくある質問

バリュープロポジションのキャンバスを埋めましたが、次に何をすればよいですか。
埋めた内容を、そのまま広告の見出しにできるか試してください。使えないなら抽象度が高すぎます。「業界特化のノウハウがある」で止めず、その業界の何がどう違うから、顧客の何が変わるのかまで下ろしてください。抽象度を1段下げる工程が、キャンバスの後に必要な作業です。
競合と差別化できる要素が見つかりません。
無理に差別化点を作らず、3つで勝負してください。成熟したカテゴリでは珍しくない状況で、実態のない差別化点は商談で確認された時点で崩れます。対象を狭める(「BtoB企業向け」ではなく「マーケ担当が1人の企業向け」)、課題の描写を具体的にする、提供の仕方(着手までの期間、担当者の関わり方、契約の柔軟性)で差をつける、の3つです。
訴求の材料はどこから集めますか。
顧客側から集めます。受注直後に「なぜ発注を決めたか」を聞くこと、失注理由、問い合わせフォームの自由記述、商談冒頭で相手が現状を説明する部分の4つが主な情報源です。受注理由は時間が経つと整理されて綺麗になるため、受注の直後に聞いてください。社内会議で強みを挙げると提供者側の語彙になり、顧客に届く言葉になりません。
訴求は1文にまとめるべきですか。
全社の1文は作りますが、それをすべての施策にそのまま使わないでください。3階層に分けます。第1層は社内の判断基準となる1文、第2層は顧客の課題の種類ごとに3〜5個用意する訴求、第3層は広告の見出しやLPの1行目といった実際の文言です。実務で最も使うのは第2層で、検証の対象は第3層です。
決裁者向けと担当者向けで訴求を分けるべきですか。
分けてください。現場担当は自分の業務がどう変わるかに関心があり、決裁者は投資に見合う成果が出るかを見ます。実務上は現場担当が情報を集めて社内で提案する流れが多いため、外向けの訴求は現場担当に向け、決裁者に説明するための材料(事例、試算資料)を別に用意する形が有効です。
訴求はどのくらいの頻度で見直しますか。
第1層は数年単位、第2層は年に1回、第3層は四半期ごとが実務上の目安です。市場の状況や競合の打ち出しが変われば有効な訴求も変わるため、固定しすぎないでください。ただし第3層を検証する際は、反応の良さだけで判断せず商談化率まで見てください。獲得数が増えても商談にならない訴求は、対象がずれています。

BtoBマーケティングの戦略設計から施策実行、運用定着までを一気通貫で支援します。