時間をかけて営業資料を作ったのに、商談では使われていない。あるいは営業ごとに改変した版が乱立し、どれが最新か分からなくなっている。営業資料をめぐる相談は、作り方より作った後の話が中心になります。
使われない資料には共通点があります。読み物として設計されているため、商談の進行と噛み合わないのです。営業資料は最初から最後まで読まれる文書ではなく、商談で画面共有しながら話を進めるための台本です。この前提が変わると、必要なページも順序も変わります。
この記事では、使われない資料の原因、商談の流れとページを対応させる設計、用途別の分け方、価格の書き方、そして更新が止まらない運用までを扱います。営業資料をこれから作る、あるいは作り直す企業を想定しています。
目次
営業資料が使われない3つの理由
原因は資料の質ではなく、商談の実際の流れと設計が合っていないことにあります。
理由1:商談の流れと順序が違う
資料は会社概要から始まり、サービス説明、機能一覧、料金、事例と続く。一方で実際の商談は、相手の課題を聞くところから始まります。順序が逆なので、営業は資料を飛ばしながら話すことになり、やがて使わなくなります。
理由2:1ページの情報量が多すぎる
紙で配る前提で作ると、1ページに情報を詰め込みます。しかし画面共有で見せる場合、細かい文字は読めません。営業が口頭で補足するための資料なのに、資料が全部を語ろうとしている状態です。
理由3:更新されず、古い情報が残っている
価格が変わった、機能が増えた、事例が追加された。こうした変化が資料に反映されないと、営業は自分で作り直します。その結果、各自が持つ版がバラバラになり、統一した資料は存在しなくなります。
3つとも、作り方ではなく設計と運用の問題です。以降ではこの3点への対処を扱います。
資料は商談の進行台本として設計する
商談の各局面で開くページを先に決め、その順序で資料を組みます。
設計の起点は「商談で何を話すか」です。初回商談の流れを書き出し、各局面で開くページを対応させます。この対応が取れていれば、営業は資料を順に送るだけで商談が進みます。
会社概要を冒頭に置かないのがポイントです。相手が知りたいのは「この会社は何をしてくれるのか」であり、資本金や沿革ではありません。会社概要は資料の最後に1ページ置けば足ります。
ヒアリングの局面に「よくある課題の一覧」を置くのは、相手に自分の状況を選んでもらうためです。営業が一方的に説明するより、相手が「これとこれが当てはまる」と言ってくれたほうが、その後の提案が具体化します。課題の言葉は実際の商談で出てくる表現をそのまま使います。
相手の課題を把握する精度を上げるには、事前にターゲット像が定義されている必要があります。ICPの設定方法を先に済ませてください。
用途で分ける|サービス紹介・提案・事例
1つの資料に全部を詰めると厚くなり、どの場面でも使いにくくなります。
営業資料と一括りにされますが、実際には用途の異なる3種類があります。分けて作り、場面ごとに使い分けます。
| 種類 | 使う場面 | 枚数の目安 | 作り方 |
|---|---|---|---|
| サービス紹介資料 | 初回商談・資料請求への返信 | 15〜25枚 | 全社共通の1本を作り込む |
| 提案資料 | 二次商談以降 | 10〜15枚 | 紹介資料を土台に個社向けに編集 |
| 事例集 | 比較検討・稟議の場面 | 1事例1〜2枚 | 業種別に用意し、必要なものを選ぶ |
最初に作るのはサービス紹介資料です。これが土台になり、提案資料はここから抜き出して個社向けに整えます。ゼロから提案資料を作る運用にすると、営業ごとに品質がばらつき、作成工数も膨らみます。
事例集は独立させます。商談相手の業種に応じて差し替えるため、紹介資料に固定で埋め込むと使い勝手が悪くなります。事例の集め方と作り方は別途整理していますが、社名を出せない場合でも業種と規模が出せれば十分に機能します。
資料請求への返信で送る場合は、営業が説明しなくても意味が通る必要があります。この用途では説明を厚くした別バージョンを用意するか、資料自体を読み物寄りに設計します。ダウンロード資料の設計はホワイトペーパーの作り方で扱っています。
事例集に載せる事例そのものの作り方はBtoB導入事例の作り方で扱っています。社名を出せない場合の設計も含めて整理しています。
サービス紹介資料の構成
1ページ1メッセージ。画面共有で読める文字サイズを基準にします。
1ページ1メッセージを守ってください。伝えたいことが2つあるなら2ページに分けます。画面共有では細かい文字が読めないため、詰め込むほど伝わらなくなります。文字サイズは18ポイント以上を目安にすると、自然に情報量が絞られます。
課題別の解決策は、2の「よくある課題」と1対1で対応させます。相手が選んだ課題のページだけを開けばよい構造にしておくと、商談の進行が速くなります。
資料の1枚目に何を書くかは、自社の訴求が定まっているかで決まります。訴求そのものの作り方はBtoBの訴求設計で扱っています。
料金は帯でよいので必ず入れる
料金がない資料は社内で回覧できません。個別見積の商材でもレンジは示せます。
「料金は個別見積なので資料には載せない」という方針の企業は多くあります。しかしBtoBでは、商談に出た担当者が資料を持ち帰り、上長や関連部署に共有します。そのとき料金が分からなければ、社内で検討が始まりません。
正確な金額でなくて構いません。「月額◯十万円〜」「初期費用◯十万円〜、規模により変動」といった帯を示せば、相手は社内で話せる状態になります。範囲が広い場合は、代表的な3パターンの構成例と概算を並べる形が実務的です。
料金ページを外した資料は、商談後の社内共有で止まります。相手が上長に説明する場面を想像して、必要な情報が揃っているかを確認してください。
あわせて導入までの流れを1枚入れます。問い合わせから稼働までに何日かかり、その間に相手が何をする必要があるのかを示すと、検討のハードルが下がります。商談化率を上げる施策全体はBtoB商談化率を上げる7つの施策で扱っています。
サイト上での料金の見せ方はBtoBの料金ページで扱っています。資料とページで金額の整合が取れているかも確認してください。
その帯をどう決めるかはBtoBの価格設定で扱っています。
更新が止まらない運用にする
資料は作った時点から劣化します。更新の担当と頻度を決めないと、各自の改変版が乱立します。
営業資料で最も見落とされるのが運用です。作った直後は全員が同じ資料を使いますが、価格改定や機能追加が反映されないと、営業は自分で修正した版を使い始めます。半年後には統一された資料が存在しなくなります。次の4点を決めます。
- 更新の担当者:1人に決めます。全員が編集できる状態にすると版が分岐します
- 更新の頻度:四半期に1回の定期見直しと、価格や機能が変わったときの臨時更新
- 保管場所:全員が同じ場所から取る。個人のローカルに置かせない
- 改変の扱い:営業が個社向けに編集するのは提案資料のみ。紹介資料は編集させない
営業が資料を自分で作り替えている場合、それは資料が商談で使いにくいという信号です。改変を禁止するだけでは解決しません。どこを直したのかを聞き取り、共通版に反映してください。
更新のきっかけを拾うには、商談で聞かれた質問を集める仕組みが要ります。営業が「毎回同じことを聞かれる」と感じている論点は、資料に不足があるということです。マーケと営業で定期的に共有する場を作る方法はマーケ・セールス連携の仕組み作りで扱っています。
資料の構成や更新体制について相談したい場合は、現在の商談の流れを前提にご相談いただけます。
オンライン商談での使い方
画面共有で見せる資料は、対面で配る資料とは別の制約を受けます。
営業資料の解説の多くは、紙で配ることを前提に書かれています。しかし現在のBtoB商談はオンラインが中心で、資料は画面共有で見せるものになりました。この違いが、資料の作り方と使い方の両方に影響します。
画面共有では細かい文字が読めない
相手がノートパソコンで参加している場合、共有された画面はさらに小さく表示されます。手元で紙を見るのとは条件が違い、9ポイント相当の注釈は読めません。本文は18ポイント以上を基準にするのは、この制約から来ています。
読めない文字を載せるくらいなら、その情報は口頭で補足するか、後で送る資料に回してください。1ページに詰め込んだ結果として何も読まれないより、要点だけが大きく書かれているほうが伝わります。
スクロールせず、ページを送る
オンライン商談中に資料を上下にスクロールすると、相手は今どこを見ているのか分からなくなります。1ページずつ送る形にしてください。そのためには1ページ1メッセージの構造が前提になります。
資料をPDFで開いて共有する場合は、全画面表示にしておきます。ブラウザのタブやツールバーが映っていると、視線が分散します。
相手の反応が見えない前提で進める
対面であれば、相手の表情から理解度が読み取れます。オンラインではカメラがオフのことも多く、伝わっているかが分かりません。5分に1回、区切りで確認を挟んでください。「ここまでで気になる点はありますか」と聞くだけで、詰まっている箇所が見つかります。
この確認のタイミングも資料の構造で作れます。セクションの切れ目にあたるページを用意しておけば、そこで自然に区切れます。
商談後に送る版を分ける
商談で使った資料をそのまま送ると、口頭で補足した部分が抜け落ちた状態で相手の社内に回ります。説明がないと意味が通らないページは、送付用では補足を加えるか、削ってください。
送付用の資料は、相手が上長に転送することを前提にします。商談に出ていない人が読んでも、何の会社で何ができて、いくらかかるのかが分かる状態が必要です。ここで料金のページが抜けていると、社内での検討が止まります。
録画を前提にした話し方
オンライン商談は録画されていることがあります。相手が社内共有のために録画する場合もあれば、自社が記録として残す場合もあります。断定できない情報や、その場限りの口約束は避けてください。
逆に、自社で録画を取る運用にすると、商談で頻出する質問を後から拾えます。その質問は資料に不足している箇所の指摘でもあるため、更新の材料になります。
最初の1本をどう作るか
既存の会社紹介資料を改修するより、商談の録画から起こすほうが早く仕上がります。
これから営業資料を作る場合、ゼロから構成を考えると時間がかかります。手元にある材料から起こす方法があります。
商談の録画から起こす
受注につながった商談の録画があれば、それが最良の素材です。実際に相手が納得した説明の順序と言葉が、そのまま資料の骨格になります。話した内容を書き出し、ページに区切っていくだけで初版ができます。
録画がない場合は、営業に「初回商談で何をどの順に話すか」を10分聞き取ってください。頭の中には型があるはずで、それを言語化する作業になります。
既存の会社紹介資料は使わない
多くの企業には会社紹介資料がありますが、これを改修して営業資料にするのは避けてください。会社紹介は自社を説明する構造になっており、顧客の課題から入る構造とは順序が根本的に違います。並べ替えでは対応できず、結果として中途半端なものになります。
会社概要のページだけは流用できます。それ以外は新規に作るほうが早く、質も上がります。
完成させずに使い始める
初版は粗くて構いません。10枚程度でも、商談で使えれば改善点が見つかります。完成を目指して1ヶ月かけるより、2週間で作って使いながら直すほうが、結果的に良いものになります。
使い始めたら、商談ごとに「飛ばしたページ」と「口頭で補った内容」を記録してください。飛ばされるページは不要か順序が違い、口頭で補う内容は資料に足りていない情報です。この2つが改善の材料になります。
複数商材がある場合の作り分け
提供しているサービスが複数ある企業では、資料を1本にまとめるか分けるかで迷います。判断は、顧客が同時に検討するかどうかです。
同じ課題に対する選択肢として並ぶ商材であれば、1本にまとめて比較できる形にします。逆に、対象部署も課題も違う商材であれば分けてください。関係のないサービスの説明が混ざると、読み手は自分向けの資料ではないと判断します。
まとめ
BtoB営業資料で押さえるべき点を整理します。
- 資料は読み物ではなく、商談で画面共有しながら話を進める台本として設計する
- 商談の各局面と資料のページを1対1で対応させる。会社概要は冒頭に置かない
- サービス紹介資料・提案資料・事例集を分ける。まず紹介資料を1本作り込む
- 1ページ1メッセージ。文字は18ポイント以上を目安にし、情報を詰め込まない
- 料金は帯でよいので必ず入れる。無いと社内で回覧できない
- 更新の担当者・頻度・保管場所・改変ルールを決める。決めないと各自の版が乱立する
- 営業が資料を作り替えていたら、それは資料が使いにくいという信号として扱う
一度で完成させる必要はありません。商談で使いながら、聞かれた質問と説明しにくかった箇所を記録し、四半期ごとに反映していくのが現実的な育て方です。
営業資料のご相談
商談の流れから逆算した構成をご相談いただけます
「資料を作ったが営業が使わない」「営業ごとに違う版が使われている」といった状態を、実際の商談の進み方から具体化します。まだ資料がない段階でも問題ありません。
よくある質問
- 営業資料は何枚くらいが適切ですか。
- サービス紹介資料で15〜25枚が目安です。1ページ1メッセージを守ると自然にこの範囲に収まります。枚数を減らそうとして1ページに詰め込むと、画面共有で読めなくなり逆効果です。提案資料は紹介資料から抜き出して10〜15枚に整えます。
- 会社概要は冒頭に入れるべきですか。
- 最後で足ります。相手が知りたいのは「この会社が何をしてくれるのか」であり、資本金や沿革ではありません。冒頭には表紙とサービスの一行説明を置き、何の会社かを先に確定させてください。会社概要は1枚を最後に置けば十分です。
- 料金を資料に載せたくないのですが。
- 帯でよいので入れてください。商談に出た担当者は資料を持ち帰り、上長や関連部署に共有します。そのとき料金が分からないと社内で検討が始まりません。個別見積が前提の商材でも、代表的な構成例と概算を3パターン並べる形であれば示せます。
- 営業が資料を使ってくれません。
- 資料の順序が商談の流れと合っていない可能性が高いです。会社概要から始まり機能一覧が続く構成は、課題を聞くところから始まる実際の商談と噛み合いません。営業に「どのページを飛ばしているか」を聞くと、直すべき箇所が特定できます。
- 営業が勝手に資料を改変してしまいます。
- 禁止するだけでは解決しません。改変は資料が使いにくいという信号です。どこをどう直したのかを聞き取り、共通版に反映してください。そのうえで、個社向けの編集は提案資料に限定し、サービス紹介資料は更新担当を1人に決めて編集させない運用にします。