展示会は、1小間でも出展料・装飾・人件費を合わせると数百万円に届くことがある施策です。それだけの予算を投じたのに、獲得した名刺が営業に渡されないまま数ヶ月が過ぎ、翌年また同じ形で出展する。
展示会で最初に必要なのは、ブースの作り方でも当日の声かけでもありません。その予算を展示会に使うのが最善かという判断と、何枚の名刺を取れば投資が回収できるのかという逆算です。ここを飛ばすと、出展後に成果を評価する基準そのものが存在しない状態になります。
限られた予算で出展を検討している会社にとって、ブースの作り込みより先に見ておきたいのは、同じ予算をほかの施策に回した場合との比較と、受注目標から逆算した名刺の必要数です。逆算した枚数が現実的でなければ、今年は出展を見送るという結論もあり得ます。
目次
そもそも出展すべきかを判断する
展示会は同じ予算を広告やコンテンツに回すという選択肢と比較して決めます。出展ありきで始めません。
展示会の費用は、1小間の出展料に装飾費・人件費・ノベルティ・交通費を加えると、規模にもよりますが、実務上の目安で100万円台から数百万円になります。同じ金額は、たとえば検索広告なら数ヶ月分の予算、コンテンツ制作なら記事十数本分の費用に相当します。それでも展示会を選ぶ理由があるかを確認します。
| 状況 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 商材の説明に実物やデモが要る | 向く | 資料や広告では伝わりきらない |
| 検索されないカテゴリの商材 | 向く | そもそも検索需要が立っていない |
| ターゲットが集まる専門展がある | 向く | 接触効率が他チャネルより高い |
| 獲得後にフォローする体制がない | 向かない | 名刺が死蔵され投資が回収できない |
| 検索需要があり広告で獲得できている | 要検討 | 広告の増額のほうが読みやすい |
獲得後にフォローする体制がない(表の4行目)まま出展すると、名刺が商談になりません。展示会で獲得したリードは、その場では商談になりません。後日のフォローで初めて商談化します。フォローする人員と仕組みがないまま出展すると、名刺が箱に入ったまま終わります。出展申込の締切前に、マーケ責任者と営業部長で獲得後に誰が何日以内に何をするかを決めてください。
比較するときは、BtoBのリード獲得施策から自社の商材で使える候補を2〜3個選び、1リードあたりの費用を展示会と並べます。展示会に回す額は、マーケ予算の配分で年間予算のどこから出すかを決めてから確定します。
すでに出展していて成果が出ていない場合は、展示会で成果が出ない理由に照らして原因を切り分けます。枚数目標の弊害と、そもそも測れているかの確認から始めてください。
比較の対象には、自社で会場を借りて少人数のセミナーを開くという選択肢も入れられます。既存顧客や商談中の企業を集めたいなら、会場で開く自社セミナーのほうが1社あたりの会話の時間を長く取れます。
製造業で出展を続けるかどうか迷う場合は、製造業で展示会とWebの技術資料を組み合わせる進め方に沿って、過去の受注案件のうち展示会で最初に会った案件がどれだけあるかを先に確かめます。
名刺獲得数を受注目標から逆算する
目標は「たくさん集める」ではありません。受注目標から商談化率で割り戻して必要枚数を確定させます。
展示会で獲得した名刺のうち商談になるのは、実務上の目安で数パーセントの水準です。この率を前提に、必要な枚数を先に出します。
図の数値は説明のための例です。自社の受注率と商談化率がある場合はそちらに置き換えてください。実績がない場合は、実務上の目安として受注率25%・商談化率3%を初期値に置き、出展後に自社の値へ差し替えます。
逆算した1時間あたりの枚数が明らかに非現実的であれば、出展規模か目標のどちらかが合っていません。出展前の逆算で気づけば、小間数や目標を見直せます。当日になってから足りないと分かっても、手の打ちようがありません。
1小間・予算100万円台での配分
限られた予算では、装飾ではなく人員と事後フォローに配分します。
予算が潤沢な企業は大型ブースと凝った装飾で目を引きますが、1小間の企業が同じ土俵で戦っても勝てません。配分の考え方を変えます。
| 項目 | 配分の考え方 | 優先度 |
|---|---|---|
| 出展料 | 固定費。削れない | — |
| スタッフの人数 | 削らない。声かけの総量が枚数を決める | 高 |
| バックパネルのコピー | 制作費は小さいが効果が大きい | 高 |
| 配布資料 | 1種類に絞る。厚くしない | 中 |
| 造作・装飾 | 最小限。パネルと什器で足りる | 低 |
| ノベルティ | 目当ての来場者を呼ぶため慎重に | 低 |
装飾を削ってでもスタッフの人数を確保してください。1小間の場合、通路に立って声をかけられる人数がそのまま獲得枚数の上限になります。2名では休憩を回すと実質1名になる時間帯が生まれます。最低3名を確保します。
ノベルティは扱いに注意が必要です。汎用的で魅力的なノベルティを配ると、商材に関心のない来場者が集まります。枚数は増えますが、その後の商談化率が下がるため、逆算した前提が崩れます。配るなら商材と関連するものにします。
配布資料は1種類で構いません。厚い会社案内より、課題と解決策が数ページにまとまった資料のほうが読まれます。手元に使える資料がなければ、ホワイトペーパーの作り方に沿って、出展の1ヶ月前までに1本仕上げます。
稟議を通す前に、展示会の出展費用の費目ごとの相場と照らして、見積もりに入っていない人件費や事後フォローの費用を足します。足した総額を獲得見込みの名刺枚数で割れば、1枚あたりの単価が出ます。
ブースは3秒で判断される
来場者は歩きながら判断します。伝えるのは社名ではなく、誰の何を解決するかです。
展示会場では、来場者はブースの前を歩きながら立ち寄るかを判断します。目に入るのはバックパネルの一番上、遠くから読める大きさの文字だけです。ここに何を書くかで立ち寄り数が変わります。
やりがちな失敗は、社名とサービス名を大きく置くことです。知られていない企業の社名は、来場者にとって判断材料になりません。書くべきは次の順です。
- 誰向けか:「製造業の営業部門向け」のように対象を名指しする
- 何が解決するか:来場者が自分の言葉で言いそうな課題をそのまま書く
- 何の会社か:カテゴリを一言で。サービス名だけでは伝わりません
バックパネルのコピーは、実務上の目安として10メートル離れて読めるかで判断してください。文字数を削るほど遠くから読めるようになり、立ち寄り数が増えます。
ブース内には立ち止まった人が見る2段目の情報を置きます。デモ画面、事例のパネル、価格の目安。ここで具体的な話に入れるかどうかが、名刺の質を分けます。
装飾会社に発注する前に、展示会ブースの設計をもとに、小間サイズ、遠くから読むパネルと近くで読むパネルの文言、入りやすい動線を決めておきます。パネルの文言を自社で書くか外注するかも、この段階で決めます。
当日の運用|枚数と質を同時に担保する
枚数だけを追うと質が落ちます。声かけの段階で対象を絞る設計にします。
「名刺を何枚集めたか」だけをKPIにすると、現場は誰彼構わず声をかけるようになります。枚数は増えますが、フォローの段階で商談にならない名刺が大量に残ります。当日の運用では、声かけの時点で緩やかに絞ります。
図2の4番目、名刺への温度記録が、展示会の成果を最も左右します。名刺の隅にAからCの記号を書くだけで構いません。これがないと、後日フォローする段階で400枚すべてが同じ扱いになり、優先順位がつけられなくなります。
朝礼で目標枚数を共有し、昼と夕方に進捗を確認します。数字が届いていない場合は声かけの総量が足りていないので、立ち位置と人員配置を調整します。
出展の規模や目標設計について相談したい場合は、受注目標と体制を前提にご相談いただけます。
説明担当が決まったら、ブースの声かけ・接客トークを全員で読み合わせます。最初の一言から終わり方までを型にしておくと、誰が立っても質が揃います。
終了後48時間で決まる
終了後48時間以内に、当日記録した温度で分けて一次接触を始めます。展示会の成果はこのフォローで確定するため、文面の準備は開催前に済ませておきます。
獲得した名刺は、放置すると急速に価値が下がります。来場者は複数のブースを回っており、時間が経つほど自社の記憶が薄れるためです。48時間以内に一次接触を開始します。
展示会後のフォローでよくある失敗は、全件に同じ一斉メールを送ることです。当日に記録した温度で分け、Aは個別連絡、Bはメール、Cは配信リストに入れるだけ、と分岐させてください。
展示会の翌日からは、展示会リードのフォロー手順に沿って温度別にメールを送り、反応のあった相手を商談につなげる流れに乗せます。営業に渡す条件は、出展前にMQL・SQLの定義として営業と合意しておきます。
次回の出展判断に使うため、獲得枚数だけでなく商談化数と受注数まで記録してください。この記録が2回分たまると、逆算に使う自社の実数値が手に入ります。
展示会後のメールから資料請求や問い合わせに来たリードが途中で離脱しないよう、出展前に問い合わせフォームの項目数と資料ダウンロードまでの導線を確認しておいてください。
終了後の対応を48時間以内に始めるには、名刺をHubSpotに取り込むためのプロパティとテンプレートを出展前に用意しておきます。
出展までの準備スケジュール
3ヶ月前から動きます。ブースの制作より、事前集客と当日の役割決めに時間がかかります。
展示会の準備で見落とされやすいのが、当日までの逆算です。出展料を払って小間が確保できた時点で安心してしまい、直前になって資料もスタッフも決まっていないという状態が起こります。
3ヶ月前:目標と対象を決める
受注目標から必要な名刺枚数を逆算し、誰に来てほしいかを定義します。ここが決まらないとブースのコピーも配布資料も決められません。展示会の来場者リストや過去の出展社一覧が公開されている場合は、そこから来場企業の傾向を掴んでおきます。
2ヶ月前:バックパネルと配布資料
制作物の発注はこの時期です。バックパネルのコピーは何度か作り直すことになるため、余裕を持って着手します。配布資料は既存のものを流用せず、展示会で渡すことを前提に作り直してください。会場で渡された資料は、その場では読まれず持ち帰られます。持ち帰った後に読まれる前提で、課題と解決策が数ページで分かる構成にします。
1ヶ月前:事前集客とアポイント
事前集客は、当日の成果を安定させやすいのに、最も抜けやすい工程です。来場が見込まれる既存顧客や停滞している商談先に、事前に案内を送ります。「展示会に出展するので、よければブースにお立ち寄りください」という連絡は、再接触の自然な口実になります。
可能であれば、当日の時間を決めてアポイントを取ります。展示会当日に確実に会える約束が数件あるだけで、その展示会の成果は安定します。飛び込みの来場者だけに依存しない設計にしてください。
2週間前:スタッフの役割と台本
誰が通路で声をかけ、誰がブース内で説明するかを決めます。あわせて、声かけの一言と2分間の説明内容を揃えておきます。人によって説明がばらつくと、獲得した名刺の温度もばらつきます。
この時点で、名刺に書く温度記号の基準も共有します。当日に初めて説明すると、現場で運用されません。
1週間前:フォローの準備
展示会後に送るメールの文面を、開催前に作っておきます。終了後に作り始めると、48時間以内の送信に間に合いません。温度別に3パターン用意し、当日の記録に応じて送り分けられる状態にしておきます。
3パターンの文面は、展示会リードのフォロー設計の温度別の送り分けと、2通目以降の間隔に合わせて作ります。
当日:朝礼と中間確認
朝に目標枚数と役割を再確認し、昼と夕方に進捗を見ます。数字が届いていない場合は、立ち位置と声かけの内容をその場で調整します。翌日以降の改善に回すのではなく、当日中に修正してください。
小間の位置と、当日の立ち位置
小間の位置を選べるなら、入口の直後より会場を一巡した来場者が通る位置や同じカテゴリの集積区画も候補にし、当日は通路に出て来場者の斜め前に立ちます。同じ予算でも、位置と立ち方で獲得枚数は変わります。
出展を申し込む際、小間の位置は選べる場合と抽選の場合があります。選べるのであれば、判断材料を持っておいてください。
位置の良し悪し
一般に有利とされるのは、入口付近、主要な通路の交差点、人気の出展社の近くです。逆に不利なのは、会場の奥まった区画や、動線から外れた行き止まりです。
ただし入口付近は必ずしも最良ではありません。来場者は入場直後は全体を見渡そうとしており、立ち止まりにくい傾向があります。会場を一巡した後に通る位置のほうが、落ち着いて話を聞いてもらえることがあります。
同じカテゴリの出展社が集まる区画に入るのは、比較されるという不利がある一方、そのカテゴリを探している来場者が集中するという利点もあります。認知の薄い企業ほど、この集積を利用する価値があります。
立ち位置で獲得枚数が変わる
ブース内で待っていると、声をかけられません。通路に出て、歩いている人の進行方向から少し前に立ちます。真正面に立つと避けられるため、斜め前が適切です。
複数名で立つ場合は、間隔を空けてください。3名が固まって立っていると、来場者は圧を感じて近づきません。1名は通路、1名はブース入口、1名はブース内で説明、という配置が機能します。
スタッフ同士で会話している時間は作りません。内輪で話している状態は、声をかけにくい空気を作ります。手が空いたら通路を見てください。
複数回出展する場合の学習
同じ展示会に継続して出展する場合、前回のデータが最大の資産になります。獲得枚数、温度別の内訳、商談化数、受注数。この4つを記録しておけば、次回の目標設定と小間数の判断が数字でできます。
加えて、来場者からよく聞かれた質問と、反応が良かった説明も記録してください。翌年のバックパネルのコピーや配布資料に反映すると、初回より確実に効率が上がります。
まとめ
BtoB展示会は、出展を決める前に他チャネルと比較し、受注目標から必要な名刺枚数を逆算し、終了後48時間以内のフォローまで準備できるかで成果が決まります。判断の要点は次の7つです。
- 出展を決める前に、同じ予算を広告やコンテンツに回す選択肢と比較する
- 獲得後にフォローする体制がないなら出展しない。名刺が死蔵される
- 受注目標から受注率・商談化率で割り戻し、必要な名刺枚数を先に確定させる
- 限られた予算では装飾を削り、スタッフの人数とパネルのコピーに配分する
- バックパネルには社名ではなく、誰の何を解決するかを10メートル先から読める大きさで書く
- 枚数だけをKPIにしない。名刺にAからCの温度記号をその場で書く
- 終了後48時間以内に、温度で分けた一次接触を開始する
1回目の出展は自社の実数値を取るための投資と考えてください。獲得枚数・商談化数・受注数を記録しておけば、2回目からは逆算の精度が上がり、出展規模の判断もできるようになります。
展示会設計のご相談
出展すべきかの判断から、フォロー体制までご相談いただけます
「毎年出展しているが成果が測れていない」「初めての出展で規模の判断がつかない」といった状態を、受注目標とフォロー体制の実態から具体化します。出展を迷っている段階でも問題ありません。
よくある質問
- 展示会の名刺は何枚集めれば成功ですか。
- 絶対的な基準はありません。受注目標から逆算した枚数に届いていれば成功です。受注3件を狙い、受注率25%・商談化率3%であれば、必要枚数は約400枚になります。他社の枚数と比べるのではなく、自社の受注目標に対して足りているかで判断してください。
- 初めての出展で予算が限られています。何を削るべきですか。
- 造作や装飾を削り、スタッフの人数とバックパネルのコピー制作に回してください。1小間の場合、通路で声をかけられる人数がそのまま獲得枚数の上限になります。休憩を回すことを考えると最低3名は必要です。ノベルティも優先度は低く、汎用的なものを配ると対象外の来場者が集まります。
- ノベルティは用意すべきですか。
- 必須ではありません。汎用的で魅力的なノベルティは商材に関心のない来場者を呼び、枚数は増えても商談化率が下がります。配る場合は商材と関連するもの、あるいは実務で使える資料などにしてください。
- 獲得した名刺のフォローはいつから始めるべきですか。
- 48時間以内です。来場者は複数のブースを回っているため、時間が経つほど自社の記憶が薄れます。全件に同じメールを送るのではなく、当日に記録した温度で分けてください。具体的な課題を話した相手には個別連絡、情報収集段階の相手にはメール、対象外は配信リストに入れるだけにします。
- 展示会と広告、どちらに予算を使うべきですか。
- 商材と検索需要で判断します。実物やデモが必要な商材、そもそも検索されないカテゴリの商材は展示会が向きます。逆に検索需要があり広告で獲得できている場合は、広告の増額のほうが成果を読みやすくなります。どちらの場合も、獲得後にフォローする体制があることが前提です。