展示会に出展して300枚の名刺を獲得した。社内には成果として報告した。しかし数ヶ月経っても、そこから生まれた受注はゼロに近い。翌年の出展を検討する段階で、稟議が通らなくなる。BtoBの企業でよく起きる流れです。
原因として挙げられるのは、当日の接客やブースの作り、フォローの遅さといった点です。いずれも間違いではありません。ただし実務で見ていくと、より根本的なところに問題があります。1つは、名刺の枚数を目標にしていること。枚数を追うと質が下がるという構造があります。もう1つは、そもそも成果が測れていないことです。「成果が出ない」と言われている案件の一定数は、出ていないのではなく見えていないだけです。
この記事では、まず切り分けの方法を示し、そのうえで4つの原因と立て直しの順序を扱います。
目次
「出ていない」のか「測れていない」のか
最初に切り分けてください。対処がまったく違います。
展示会の成果が見えないとき、原因は2つに分かれます。本当に商談が生まれていない場合と、生まれているが記録されていない場合です。後者は珍しくありません。
展示会で獲得した名刺は、多くの場合、営業がそれぞれ手元で管理します。数ヶ月後にその中の1社から連絡が来て商談になっても、記録上は「問い合わせ」や「営業経由」として処理されます。展示会が起点だったという情報が残りません。
次の3点を確認してください。
- 獲得した名刺が1か所に集約されているか:営業の手元に分散していると、その先が追えません
- 展示会名がデータに記録されているか:どの展示会で取得したかの区別がついているかを見ます
- 商談や受注と紐づいているか:名刺の情報が、その後の商談レコードとつながっているかを確認します
3つとも整っていない場合、成果を評価すること自体ができていません。この状態で「展示会は効果がない」と結論を出すのは早すぎます。まず記録できる形を作ってから、1回分を測り直してください。
計測の設計はBtoBマーケの効果測定、チャネルごとの貢献をどう見るかはBtoBアトリビューション分析で扱っています。
展示会経由の商談は、獲得から数ヶ月遅れて発生することがあります。会期直後の3ヶ月だけを見て判断すると、実際の貢献を過小評価します。半年から1年の期間で見てください。
原因1|枚数を目標にしている
枚数を追うと、商談にならない名刺が増えます。
これが最も大きな原因です。展示会の目標として「名刺300枚」を設定すると、現場はその数字を達成しようとします。そして枚数を増やす最も簡単な方法は、対象を絞らないことです。
対象外の名刺が混ざると、その後の工程すべてに影響します。営業が架電しても反応がなく、数十件かけたところで手応えのなさから連絡が止まります。結果として、その中に含まれていた本当の見込み客にも連絡が届かないまま終わります。
目標を変えてください。枚数ではなく、有効名刺の件数にします。有効名刺とは、対象企業に該当し、かつ何らかの関心を示した相手です。「名刺300枚」ではなく「有効名刺60件」を目標にすると、現場の動き方が変わります。声をかける相手を選ぶようになり、短い会話で対象かどうかを確認するようになります。
ノベルティについても同じです。配布物で人を集めると枚数は増えますが、有効名刺の比率は下がります。廃止するか、話を聞いてくれた相手にだけ渡す形に変えてください。
当日その場で、名刺にA・B・Cの印をつける運用にしてください。話した内容から3段階に分けるだけです。この1手間があるかどうかで、フォローの精度がまったく変わります。
目標設計の考え方はBtoB展示会の出展準備で扱っています。受注目標から逆算する形にすると、枚数目標には行き着きません。
原因2|フォローする工数を空けていない
遅いのではなく、動ける人がいない状態です。
展示会後のフォローは早いほど良い、という指摘はよく見ます。ただし実務で問題なのは、担当者が優先順位を間違えていることではありません。動く時間が確保されていないことです。
会期の3日間、営業は通常の業務を止めています。展示会が終わった翌週は、止まっていた既存の商談が再開します。加えて300枚の名刺のデータ化があり、その上で新規の架電をすることになります。物理的に回りません。
対処は、出展を決めた時点でフォローの工数を確保しておくことです。
- 会期後1週間を、フォロー専任の期間として空ける:新規の商談設定を入れない期間を作ります
- データ化を外部に出す:名刺のデータ化に営業の時間を使わないでください。会期中に随時出す形にすると、翌日から動けます
- 連絡の担当を分ける:Aランクは営業、BとCはマーケティングや事務が定型の連絡を送る形にします
- 文面を事前に作っておく:会期後に文面を考えると、それだけで数日かかります
4番目は特に効きます。ランクごとの文面を3種類、出展前に用意しておいてください。会期翌日に送り始められる状態を作れば、それだけで反応率が変わります。
フォローの具体的な手順は展示会後のリードフォロー、獲得した名刺の活かし方は展示会で獲得したリードの活用で扱っています。
原因3|事前集客をしていない
当日に会える相手は、出展前に決まっています。
展示会を「当日に新しい出会いがある場」と考えていると、成果は運に左右されます。実際に商談につながりやすいのは、事前に来場を打診していた相手です。
やるべきことは3つです。いずれも費用はほとんどかかりません。
- 既存の見込み客に案内を送る:過去に接点があり、その後止まっている相手に「出展します」と伝えます。会う口実として機能します
- 時間を指定してアポイントを取る:「◯日の14時にブースにお越しいただけませんか」と打診します。当日の商談が確定します
- 既存顧客にも案内する:追加提案の機会になります。会場で会うと、通常の訪問より話が広がります
2番目まで実行できると、当日の成果が読めるようになります。事前に10件のアポイントが入っていれば、その日の商談数は最低10件です。飛び込みの来場者に依存しなくなります。
逆にこれをしていないと、来場者の流れとブースの立地だけで結果が決まります。良い場所を取れなかった年は成果が出ない、という状態から抜けられません。
案内を送る相手がいない場合は、そもそも展示会の前にリスト作りが必要です。獲得手段の整理はBtoBリード獲得施策一覧で扱っています。
原因4|来場者層と商材が合っていない
運用の問題ではなく、選ぶ展示会を間違えている場合があります。
前の3つを整えても成果が出ない場合、出展先の選定を疑ってください。展示会の来場者層と、自社の対象顧客が重なっていない可能性があります。
確認する方法は2つあります。1つは主催者が公表している来場者データです。業種、職種、役職の内訳が出ています。自社の対象と照らして、該当する層が全体の何割かを見てください。
もう1つは、前年に来場者として行くことです。出展料も装飾費もかからず、競合のブースの様子と、どんな来場者が歩いているかを直接確認できます。初出展の前年にこれをやると、翌年の判断の精度が上がります。
また、来場者の目的も確認してください。同じ業界の展示会でも、発注検討のために来る人が多い展示会と、技術情報の収集に来る人が多い展示会があります。後者では名刺は集まりますが、商談にはつながりにくくなります。
合っていないと判断したなら、出展をやめる選択も含めて検討してください。運用の改善で埋められる差ではありません。
立て直しの順序
当日の改善より、前後の設計を先に直します。
すべてを一度に変えることはできません。効果の大きい順に着手してください。
| 順序 | やること | 費用 |
|---|---|---|
| 1 | 名刺を1か所に集約し、展示会名を記録する | ほぼゼロ |
| 2 | 目標を枚数から有効名刺の件数に変える | ゼロ |
| 3 | 会期後1週間のフォロー工数を先に確保する | ゼロ |
| 4 | ランク別の文面を出展前に用意する | ゼロ |
| 5 | 既存の見込み客に事前案内とアポ打診をする | ほぼゼロ |
| 6 | 当日の運用(声かけ、ランク付け)を変える | ゼロ |
| 7 | ブースの内容を見直す | 発生する |
1から6までは費用がかかりません。にもかかわらず、多くの企業が7から着手します。ブースのデザインを変えれば成果が変わるという発想ですが、順序としては最後です。
特に1番は、次回の出展を判断するための土台になります。ここが整っていないと、改善したかどうかも分かりません。次の出展の前に、必ず済ませてください。
展示会の成果が出ない原因の切り分けや、立て直しの進め方を相談したい場合は、これまでの出展実績を前提にご相談いただけます。
当日の会話が浅く終わっている
名刺のランク付けができない、という相談を受けることがあります。多くの場合、原因は会話の内容にあります。挨拶と資料の受け渡しで終わっていると、相手が対象かどうかを判断する材料が残りません。
必要なのは長い会話ではありません。30秒で聞ける質問を2つ用意してください。1つは相手の立場を確認するもの、もう1つは現状を確認するものです。「どういった業務でご覧になっていますか」と「今は何かお使いですか」の2問で、ランク付けに足りる情報が取れます。
この2問を全スタッフが同じように聞ける状態にしてください。人によって聞くことが違うと、名刺に残る情報の粒度が揃わず、後の判断に使えなくなります。当日の朝に読み合わせをするだけで揃います。
社内での位置づけが曖昧になっている
展示会が「毎年やっているから今年もやる」という状態になっていると、改善が進みません。誰の目標にも入っていないため、振り返りも行われないためです。
出展を決める段階で、その展示会で何を達成したいのかを1つに絞ってください。新規の商談を作るのか、既存顧客との関係を深めるのか、認知を広げるのか。目的が複数あると、当日の動き方も評価の基準も定まりません。
また、出展後の振り返りを日程として先に押さえておいてください。会期から2週間以内に、獲得数・ランク別の内訳・フォローの反応・かかった費用を並べる場を作ります。この場がないと、翌年も同じやり方が繰り返されます。
営業とマーケティングで評価がずれている
マーケティングは獲得枚数を成果として報告し、営業は「使える名刺がなかった」と評価する。この食い違いは、両者が別の指標を見ていることから生まれます。
解消するには、展示会の成果を商談数で共通の指標にしてください。マーケティングの報告も、枚数ではなく有効名刺と商談数で行います。指標が揃うと、翌年の改善点についても議論が噛み合うようになります。
加えて、営業にも事前の関与をしてもらってください。当日のアポイント打診は営業が既存の関係の中で行うほうが通ります。準備段階から関わっていれば、獲得した名刺への当事者意識も変わります。
費用側の内訳と、総額をどう見積もるかは展示会の出展費用で扱っています。見落としやすい費目を入れると総額は1.5〜2倍になります。
まとめ
展示会で成果が出ない原因と対処を整理します。
- まず「出ていない」のか「測れていない」のかを切り分ける。名刺の集約・展示会名の記録・商談との紐付けを確認する
- 展示会経由の商談は数ヶ月遅れて発生する。3ヶ月で判断せず、半年から1年で見る
- 枚数を目標にすると対象外の名刺が増え、フォローの反応率が落ちる
- 目標は「名刺300枚」ではなく「有効名刺60件」にする
- ノベルティは廃止するか、話を聞いてくれた相手にだけ渡す
- 当日その場で名刺を3段階に分ける。この1手間でフォローの精度が変わる
- フォローが遅いのは意識の問題ではなく、工数を空けていないため
- 会期後1週間を空け、データ化は外部に出し、文面は出展前に用意する
- 当日会える相手は事前に決まる。既存の見込み客への案内とアポ打診を必ず行う
- 前の3つを整えても出ないなら、来場者層と商材が合っていない可能性を疑う
- 立て直しはブースの見直しからではなく、記録と目標の設定から着手する
展示会は費用が大きい施策なので、成果が出ないと出展そのものが否定されがちです。しかし多くの場合、問題は当日ではなく前後の設計にあります。費用をかけずに直せる部分から順に着手してください。
展示会の立て直しのご相談
原因の切り分けから改善の順序までご相談いただけます
「名刺は集まるが商談にならない」「来年も出るべきか判断できない」といった状態を、これまでの獲得数と商談数から具体化します。数字が揃っていない段階でも問題ありません。
よくある質問
- 名刺は集まるのに商談になりません。何が原因ですか。
- 枚数を目標にしていることが最も大きな原因です。「名刺300枚」を目標にすると、枚数を増やす方法が選ばれ、対象を絞らずに交換するようになります。結果として学生や同業他社、配布物が目的の来場者が混ざり、フォローの反応率が落ちます。目標を「有効名刺60件」のように、対象企業に該当し関心を示した相手の件数に変えてください。
- フォローが遅れてしまいます。どうすれば早くできますか。
- 担当者の意識ではなく、工数の問題として扱ってください。会期の3日間は通常業務が止まっているため、翌週は既存商談の再開とデータ化が重なり、物理的に動けません。出展を決めた時点で会期後1週間をフォロー期間として空け、名刺のデータ化は外部に出し、ランク別の文面を出展前に用意してください。会期翌日から送り始められる状態を作ることが目的です。
- 展示会の効果はいつ判断すればよいですか。
- 会期後3ヶ月では早すぎます。展示会経由の商談は数ヶ月遅れて発生することがあるため、半年から1年の期間で見てください。ただしその前提として、獲得した名刺が1か所に集約され、展示会名が記録され、その後の商談と紐づいている必要があります。この3つが整っていないと、そもそも評価ができません。
- ノベルティは用意すべきですか。
- 枚数は増えますが、有効名刺の比率は下がります。配布物を目的とした来場者が集まるためです。廃止するか、話を聞いてくれた相手にだけ渡す形に変えてください。獲得単価を有効名刺で計算すると、ノベルティを配った回のほうが悪化していることがあります。
- ブースのデザインを見直すべきでしょうか。
- 順序としては最後です。名刺の集約と記録、目標の設定、フォロー工数の確保、文面の準備、事前案内とアポ打診、当日の運用の見直しまでは費用がかからずに実行できます。多くの企業が費用のかかるブースの改修から着手しますが、効果が大きいのは費用のかからない前後の設計です。
- すべて改善しても成果が出ない場合はどうしますか。
- 出展先の選定を疑ってください。展示会の来場者層と自社の対象顧客が重なっていない可能性があります。主催者が公表している来場者データで業種・職種・役職の内訳を確認し、自社の対象が全体の何割かを見てください。また、発注検討で来る人が多い展示会か、情報収集が中心の展示会かでも結果が変わります。合っていないなら、運用の改善では埋められません。