ABMの始め方|やるべきかの判断軸と最初の90日でやること

「ABMをやりたい」と経営会議で話が出たものの、何から手をつければいいのか分からない。ツールの資料は集めたが、月額の割に自社で使いこなせる気がしない。追うべき企業のリストは営業が頭の中に持っているはずなのに、マーケティング側から触れる形にはなっていない。商材単価が高く、対象になる企業が限られている会社ほど、この状態で止まりがちです。

ABMはツールを契約した瞬間に始まるものではありません。最初にやるべきは、営業と一緒に「どの企業を追うか」を社名レベルのリストとして確定させ、成果をアカウント(社)単位で数え直すことです。ここさえ通れば、当面は既存のCRMとスプレッドシートだけで回せます。

この記事では、BtoB企業のマーケティング責任者やスタートアップの経営者に向けて、自社がABMをやるべきかを見極める判断軸と、最初の90日で何をどの順に進めるかを実務手順として整理します。ターゲットアカウントリストの作り方、営業との合意形成、アカウント単位のKPI設計、既存のリード獲得施策との併存まで扱います。

目次

ABMとは何か|リード獲得型と何が違うのか

ABMの本質は手法の違いではなく、成果を数える単位を「人」から「企業」に変えることにあります。

ABM(Account Based Marketing/アカウントベースドマーケティング)は、自社の売上に貢献する可能性が高い企業を名指しで選び、その企業群にマーケティングと営業のリソースを集中させる考え方です。手法の名前というより、リソース配分の方針だと捉えたほうが実務では扱いやすくなります。

数える単位が「リード」から「アカウント」に変わる

従来のリード獲得型は、母集団を広げてリードを積み上げ、その中から条件を満たしたものを営業に渡す進め方です。出発点は「どれだけ集まったか」にあります。対してABMは、先に追う企業を決め、その企業の中にどれだけ接点を作れたかで進捗を測ります。出発点が「誰を追うか」に置き換わります。

違いが最もはっきり出るのはレポートの1行です。リード獲得型のレポートは1行が1人ですが、ABMのレポートは1行が1社になります。同じ企業から5人が資料をダウンロードしたとき、前者は「5件獲得」と読み、後者は「1社の中に5人の接点ができた」と読みます。この読み替えができるかどうかが、ABMを名乗れるかどうかの分岐点です。

観点リード獲得型ABM
出発点母集団を広げる追う企業を先に決める
数える単位リード(人)アカウント(社)
主要指標リード数・MQL数・獲得単価接点のある社数・商談化社数
コンテンツ業界共通の課題に汎用で当てる対象企業の状況に合わせて作り替える
営業との関係渡す/受け取る同じリストを一緒に見る
成果が見える時期数週間〜数か月2〜4四半期

ABM・ICP・ペルソナを混同しない

この3つは並列ではなく、上流から下流に並ぶ関係にあります。ICP(理想顧客プロファイル)は「どういう条件の企業か」という抽象的な定義です。ターゲットアカウントリストは、その条件に実在の社名を当てはめたものです。ペルソナは、その企業の中で誰と話すのかという人物像です。ABMを始めようとして最初につまずくのは、ICPだけ作ってリストに落とさない、あるいはリストだけ作ってICPの言語化を飛ばすケースです。

ICPの定義がまだ曖昧なら、先にBtoBマーケティングでのICP設定方法を整理してからリスト作成に入ったほうが、営業との議論が短く済みます。社内で話す相手の像が固まっていない場合はBtoBペルソナの設定方法も併せて確認してください。

自社はABMをやるべきか|5つの判断軸

ABMが効くのは、追うべき企業を数え上げられる市場です。対象が広く単価が低い商材では、同じ工数をリード獲得に回したほうが早く成果が出ます。

「BtoBだからABM」ではありません。以下の5つで自社の状況を確認してください。①②③が満たせていない場合、ABMの形だけ整えても、営業の稼働が増えるだけで終わります。

判断軸①:1社あたりの取引額が大きいか

ABMは個社への手作業を前提にします。資料の作り替え、役員へのアプローチ設計、営業との個別すり合わせに人の時間が乗ります。1社受注したときの粗利が、その工数の人件費を明確に上回るかどうかが最初の関門です。年間取引額が数十万円規模の商材で個社対応を積むと、労力に対して回収できません。

判断軸②:対象企業を列挙できる規模か

ICPに当てはまる企業が、国内で数十社から数千社の範囲に収まるかどうかを見ます。上場企業の情報システム部門、特定業種の年商50億円以上、といった条件で企業名まで書き出せるならABM向きです。対象が数万社を超えるなら、名指しで追う運用は現実的ではなく、従来型の集客のほうが効率的です。

判断軸③:意思決定に複数の関与者がいるか

稟議に3人以上、しかも部署をまたいで関与するなら、アカウント単位で追う意味があります。担当者1人の決裁で完結する商材なら、その担当者個人を追えば足りるため、企業単位に切り替える必然性が薄くなります。バイイングセンターが広いほどABMの効果は大きくなります。

判断軸④:営業が個社対応に動ける体制か

ここが最も軽視されます。ABMはマーケティング部門だけでは完結せず、営業が能動的にアプローチすることで初めて回ります。営業全員が反響対応と既存顧客の対応で埋まっている状態では、どれだけ精度の高いリストを渡しても動きません。アウトバウンドの経験がまだない場合は、BtoBのアウトバウンド営業の判断とリスト設計から先に確認するほうが順序として自然です。

判断軸⑤:企業単位でデータを見られるか

CRM上で会社レコードと担当者レコードが正しく紐づいているかを確認してください。同じ企業が表記ゆれで3件に分かれている、部署ごとに別法人として登録されている、といった状態ではアカウント単位の集計そのものが成立しません。ABMの前提条件として、リードの名寄せと重複管理を先に片づける必要があります。

判断軸やるべきに寄る状態まだ早いに寄る状態
取引額1社の年間取引額が数百万円以上単価が低く数を積む商材
対象企業数数十〜数千社で列挙できる数万社以上が対象になる
意思決定複数部署・複数人が関与する担当者1人で決まる
営業体制能動的に動ける営業がいる反響対応だけで埋まっている
データ会社単位で名寄せできている重複と表記ゆれが放置されている

5つのうち④の営業体制だけが欠けている場合、リスト作成を先行させても成果は出ません。営業の稼働をどう空けるかを先に決めるほうが、結果的に立ち上がりが早くなります。

逆に、認知がほぼゼロで自社の名前を知られていない段階なら、ABMより先にやることがあります。この場合はBtoBリード獲得施策一覧を参照して、まず接点の総量を作る打ち手から着手してください。

ABMを始める最初の90日|3フェーズの進め方

最初の90日は施策を打つ期間ではなく、リストと数え方を固める期間です。ここで施策から入ると、対象が曖昧なまま工数だけが消えます。

ABM立ち上げ 最初の90日 Day 1-30|対象を決める ▸ 過去3年の受注・失注を棚卸しする ▸ 受注に共通する「きっかけ」を言語化 ▸ ICPと除外条件を1枚にまとめる ▸ 営業とTier1候補を20社まで絞る Day 31-60|リストとデータを固める ▸ リストをCRMの会社レコードに登録 ▸ 既存リードとドメインで突き合わせ ▸ Tier・担当営業・選定理由を項目化 ▸ アカウント単位のレポートを1本作る Day 61-90|小さく試して判断する ▸ Tier1の数社だけに個社対応を試す ▸ 週次30分で営業とリストを見る ▸ 接点が増えた社数で進捗を測る ▸ 90日目に継続・作り直し・中止を決める
図1:ABM立ち上げ最初の90日のロードマップ

Day 1-30:追う企業の条件を確定させる

最初の1か月は分析に使います。過去3年分の受注と失注を並べ、受注企業の共通点を洗い出してください。業種と従業員規模だけで終わらせないことが要点です。実務で精度が高いのは「なぜそのタイミングで検討したのか」という共通のきっかけのほうです。基幹システムの入れ替え時期、担当役員の交代、事業部の新設、法改正への対応など、外から観測できるきっかけが見つかると、リストの優先順位づけが一気に楽になります。

同時に除外条件も書き出します。「この条件に当てはまる企業は追わない」を明文化しておくと、後の営業との議論が短くなります。除外条件を書けるかどうかが、ICPの解像度をそのまま表しています。

Day 31-60:リストを確定し、データを整える

2か月目はリストをCRMに載せる作業です。会社レコードにTier、担当営業、選定理由、既存接点の有無をプロパティとして持たせます。この時点で必ずやってほしいのが、既存の保有リードとリストの突き合わせです。ドメイン単位で照合すると、Tier1の企業のうち相当数が既に何らかの接点を持っているケースが珍しくありません。新規開拓に走る前に、既にある接点を掘り起こすほうが速く進みます。

あわせてアカウント単位のレポートを1本だけ作ります。凝ったダッシュボードは不要です。「リスト内の社数」「直近30日に何らかの接触があった社数」「商談が発生した社数」の3つが見えれば十分です。CRM側の設計をこれから詰める段階なら、HubSpot活用ガイドのレポート設計の考え方が参考になります。

Day 61-90:小さく試して、続けるかを決める

3か月目に初めて施策を打ちます。ここでTier1の全社に一斉展開しないでください。3〜5社に絞って個社対応を試し、営業からの反応と、企業側の反応の両方を見ます。週次で30分、営業とリストを画面に映して1社ずつ状況を確認する時間を取ります。この30分が続くかどうかが、ABMが組織に定着するかどうかの実質的な判定になります。

90日目に問うべきは「商談が何件出たか」ではなく、「営業とマーケが同じリストを見て会話できるようになったか」です。ここが動いていれば、商談は次の四半期に出てきます。

ターゲットアカウントリストの作り方

リストは「営業が明日から動ける粒度」でなければ意味がありません。条件の羅列ではなく、社名と選定理由がセットで並んでいる状態を目指します。

2つの軸でセグメントを切る

実務で扱いやすいのは、ポテンシャルと投資意欲の2軸です。ポテンシャルは「その企業に自社が提供できる価値の大きさ」、つまり想定取引額の上限です。投資意欲は「いま動く理由があるか」で、予算計上の有無や事業環境の変化を指します。ポテンシャルが高くても動く理由がない企業は、長期の関係構築の対象であって、今期の商談対象ではありません。この2つを分けておくと、営業に渡すときの期待値が揃います。

軸の精度を上げるのに最も効くのは、外部データではなく自社の一次情報です。既存顧客に30分だけ時間をもらい、「なぜあのタイミングで検討を始めたのか」「他にどこと比べたのか」「社内で誰が反対したのか」を聞く。この3問から出てくる情報のほうが、購買データや企業属性データよりリストの精度に直結します。

Tierを3段階に分け、社数を先に決める

Tierごとに対応の濃さを変えます。ここで重要なのは、社数を「営業が同時に追える数」から逆算することです。営業3名の組織でTier1に100社を置いても、1社あたりの対応は薄まって従来型と変わらなくなります。

Tierごとの社数とアプローチ Tier 1 / 10〜20社 個社別に提案を設計する 営業と1社ずつ担当を決める Tier 2 / 50〜200社 業界・課題別に束ねて当てる セミナーや業界特化の資料 Tier 3 / 200社〜 広告と一斉配信で面を取る 個別対応はしない前提で組む 社数は営業が同時に追える数から逆算する
図2:Tier別の社数目安とアプローチの濃さ

リストに必ず持たせる項目

最低限、次の項目を列として持たせてください。企業名、名寄せ用のキー(ドメインまたは法人番号)、Tier、担当営業、選定理由、既存接点の有無、直近アクション日、ステータスの8つです。

このうち最も重要なのは選定理由です。「なぜこの企業をリストに入れたのか」を1文で書けない企業は、リストから外してください。書けないということは、営業に渡したときにも説明できないということです。ここを空欄のまま数百社を並べたリストは、ほぼ確実に使われずに終わります。

更新は四半期ごと、入れ替えは全体の1〜2割まで

リストは固定するものでも、毎月入れ替えるものでもありません。四半期に1度レビューし、入れ替えは全体の1〜2割を上限にするのが実務的です。頻繁に入れ替えると、どのアプローチが効いたのかが分からなくなり、学習が溜まりません。外す企業には「なぜ外すのか」を残しておくと、次のICP更新の材料になります。

営業との合意形成|リストを握るための進め方

ABMが止まる最大の原因は、マーケティングが作ったリストを営業が使わないことです。リストは渡すものではなく、一緒に作るものとして扱います。

合意すべきは4項目

会議の議題を4つに絞ります。①対象企業(社名レベルでの合意)、②Tierごとに何をやるか、③シグナルが出たときの引き渡し条件と対応速度、④何をもって成果とするか。この4つが口頭ではなくドキュメントで残っていない状態で施策に進むと、四半期末に必ず認識のずれが出ます。

叩き台はマーケが作り、営業に削らせる

進め方には順序があります。マーケティング側が受注データから抽出した候補リストを叩き台として出し、営業に「これは違う」と削ってもらう。この形が最も早く合意に至ります。営業に白紙から選ばせると既存の付き合いに偏り、マーケティングが押し付けると現場の温度感が抜け落ちます。データと現場勘の両方を入れるための手順として、叩き台方式を取ります。

営業が特定の企業を外したがったときは、そこで引かずに「なぜこの会社は違うのか」を必ず聞き取ってください。「あそこは購買の仕組みが特殊で稟議が通らない」「代理店経由でしか買わない」といった理由が出てきます。これはそのまま除外条件として言語化できる、リストの精度を上げる資産です。

引き渡しの速度をあらかじめ決めておく

Tier1の企業から何らかのシグナル(資料ダウンロード、価格ページの閲覧、問い合わせ)が出たとき、営業が何時間以内に一次接触するかを決めておきます。ABMではリストが絞られている分、1件のシグナルの重みが従来型とは比べものになりません。ここはMQL・SQLの定義と設計方法と同じ考え方で、条件と対応時間をセットで決めます。連携の仕組みそのものが弱い場合は、マーケ・セールス連携の仕組み作りから先に着手するほうが順序として正しくなります。

自社の営業体制でどこまでABMを回せるのか、リストの粒度は妥当かといった判断に迷う場合は、現状のデータをもとにした個別の壁打ちもご利用ください。

ABMのKPI設計|リード数では成果が見えない

ABMの評価指標は、すべてアカウント(社)を分母か分子に置きます。リード数のまま評価すると、対象を絞った施策は必ず数字が悪く見えます。

ABMを始めた直後にリード数は落ちます。母集団を意図的に絞っているのだから当然です。ここで従来の指標のまま評価会議に持ち込むと、成果が出る前に止まります。指標の置き換えは、施策を始めるより先に済ませておくべき作業です。

フェーズ指標見方
準備アカウントカバー率リスト内で既に接点がある社数の割合
関心エンゲージメント社数直近30日に何らかの接触があった社数
関心1社あたり接点人数1社の中で接触できている人の数
商談商談化社数リスト由来で商談が発生した社数
商談Tier1商談化率Tier1の中で商談に至った社の割合
受注受注社数とアカウント単価リスト由来の受注と1社あたりの取引額

先行指標は「1社あたり接点人数」を推奨する

アカウント単位の指標の中で、最も早く動き、かつ商談との相関を検証しやすいのが1社あたりの接点人数です。BtoBの意思決定は合議で進むため、1社1人しか接点がない状態ではほぼ動きません。まず自社の過去の受注データで「受注に至った企業は商談前に何人と接点があったか」を数えてください。そこで出た数字を目標値に置き、リスト全体を押し上げる運用にします。他社のベンチマークより、自社の受注実績から出した数字のほうが説得力があります。

リード数の計測を止める必要はありません。ただしABMの評価会議に持ち込むと、対象を絞った意思決定そのものが否定されるため、レポートを分けて管理してください。

時間軸の期待値を先に握る

検討期間が6か月の商材なら、90日で受注は出ません。最初の90日で見るのは接点の増加、次の90日で商談化、その次で受注、という時間軸を経営層と先に合意しておきます。ここを握らずに始めると、2四半期目で予算が引き上げられます。指標の階層設計そのものを整理し直したい場合はBtoBマーケのKPI設計完全ガイドを参照してください。

ツールを買う前にできること

最初の1〜2四半期は、既存のCRMとスプレッドシートで十分に成立します。ツールが運用を作ってくれることはありません。

ABMツールの検討から入る企業は多いのですが、順序が逆です。ツールが解決するのは「手作業が追いつかない」という問題であって、「誰を追うか決まっていない」という問題ではありません。決まっていない状態でツールを入れると、機能を使いこなせないまま契約だけが残ります。

手持ちの環境でできること

既存のCRMがあれば、次のことは今日から始められます。会社レコードにTierのプロパティを追加してリストを管理する。保有リードをドメイン単位で突き合わせ、既に接点がある企業を洗い出す。Tier1向けに営業から個別のメールを送る。Tier2向けに業界を絞ったセミナーを開く。アカウント単位の簡易レポートを1本作る。ここまでは追加投資なしで到達できます。

ツールを検討する境界線

次のいずれかに当てはまったときが、初めて検討に値するタイミングです。リストが数百社を超えて手作業の更新が追いつかない。匿名の企業行動(サイトに来ている企業)を継続的に把握したい。外部のインテントデータを仕入れたい。広告配信をアカウントリスト単位で制御したい。いずれも「今の運用が回っていて、その上で手が足りない」が前提です。運用が存在しない段階でこの4つが必要になることはありません。

なお、どのタイミングで検討するにせよ、既存CRMの会社レコードが正しく1社1レコードになっているかは事前に確認してください。ここが崩れたままツールを重ねても、出てくる集計は合いません。ツールの導入がデータ整備を代行してくれることはなく、むしろ精度の低いデータの上で自動化が走ると、誤った企業に誤ったメッセージが届く事故が起きます。

ABMをどこから着手し、既存の施策とどう並べるかの設計は、自社の受注データと営業体制を見ないと決まりません。判断に迷う段階であれば、初期設計の相談から始めてください。

既存のリード獲得型マーケとの併存のさせ方

ABMは既存のリード獲得を止めて始めるものではありません。1つのファネルの中に、追い方の違う2本の線を通すと考えます。

予算は全振りしない

最初は既存のマーケティング予算の1〜2割を上限にABMへ振り向けるところから始めます。全振りすると、成果が出るまでの2〜3四半期のあいだ商談が枯れます。ABMは既存のリード獲得を置き換えるものではなく、上に積む施策として扱うのが安全です。ファネル全体の中での位置づけを整理したい場合はBtoBファネル設計のやり方を確認してください。

コンテンツは大半が兼用できる

個社ごとに作り替えが必要なのはTier1だけです。業界別の導入事例、課題別のホワイトペーパー、業種特化のセミナーは、Tier2向けの施策としても通常のリード獲得施策としても使えます。ABMを始めると新しいコンテンツを大量に作らなければならない、という思い込みが立ち上げを重くしています。実際に増えるのはTier1向けの数点だけです。

リード獲得側の役割が変わる

併存させるうえで実務的に最も効くのが、流入の振り分けルールです。ターゲットアカウントリストに載っている企業から来たリードは、スコアの高低に関係なく即座に営業へ渡す。それ以外は従来どおりナーチャリングに流す。この2本立てにするだけで、リストの価値が営業に伝わります。アウトバウンドの担当を置いている場合は、SDRとBDRの違いを踏まえて、Tier1をBDRの担当範囲に寄せる設計が組みやすくなります。

専任を置かずに始める

立ち上げ期にABM専任を採用する必要はありません。既存のマーケティング担当が週の2〜3割をABMに充てる形で十分に回ります。専任を置くのは、リストが機能し、商談が実際に出てからです。人を先に採ると、成果が出る前に「その人は何をしているのか」という問いに晒されます。

ABM立ち上げでよくある失敗パターン

失敗の型は限られています。ほとんどが、リストの粒度と営業との合意、そして評価指標のどこかに原因があります。

  • リストが大きすぎる:500社をTier1に置いて、結局どこにも深く入れない。営業の人数から逆算して社数を決め直します。
  • 選定理由が書かれていない:社名だけが並んだリストは営業に使われません。1社1文の理由を必須にします。
  • 営業が合意していない:マーケティングだけで作ったリストは、渡した時点で止まります。叩き台方式で削らせる工程を入れます。
  • リード数で評価し続ける:始めた直後に数字が落ち、成果が出る前に打ち切られます。指標の置き換えを施策開始より先に済ませます。
  • ツールから入る:運用がない状態で契約すると、機能が使われないまま費用だけが残ります。手作業が追いつかなくなってから検討します。
  • Tier1の全社に一斉展開する:初回から広げると、何が効いたのか分からないまま工数だけが消えます。3〜5社で試してから広げます。

まとめ

ABMは新しい手法を導入する話ではなく、追う対象を絞り、数え方を企業単位に変える意思決定です。

始める前に確認すべきは5つです。1社あたりの取引額が大きいか、対象企業を数十〜数千社で列挙できるか、意思決定に複数人が関与するか、営業が個社対応に動ける体制か、企業単位でデータを見られるか。ここが揃っていないなら、ABMより先に整えるべきものがあります。

揃っているなら、最初の90日は施策ではなくリストと数え方に使ってください。受注データの棚卸しからICPと除外条件を言語化し、営業とTier1の20社を握り、CRMに載せ、アカウント単位のレポートを1本作る。90日目に見るのは商談数ではなく、営業とマーケティングが同じリストを見て会話できるようになったかどうかです。

ツールは、その運用が回り始めて手作業が追いつかなくなってから検討すれば間に合います。既存のリード獲得は止めず、予算の1〜2割から積み上げる。この順序を守るだけで、立ち上げの失敗確率はかなり下がります。

無料相談

ABMを始めるべきか、ターゲットリストから一緒に決めます

「自社の商材でABMが成立するのか」「Tier1に何社置くべきか」「営業とどう握るか」といった判断は、受注データと営業体制を見ないと決まりません。Ampelは外部CMOとして、ターゲットアカウントの選定から営業との合意形成、アカウント単位のレポート設計までを実務で伴走します。現在のリード獲得の状況をうかがったうえで、最初の90日にやるべきことを整理してお返しします。

よくある質問

ABMとリード獲得はどちらを先にやるべきですか
認知がまだ薄く、自社の名前で検索されない段階ならリード獲得が先です。すでに一定の接点があり、受注企業に明確な共通点が見えているならABMを重ねる価値があります。判断の分かれ目は「追うべき企業を社名で書き出せるか」で、書き出せないうちはABMの土台がまだできていません。
ターゲットアカウントは何社が適切ですか
絶対的な正解はなく、営業の人数から逆算します。1人の営業が同時に深く追える企業は現実的には数社から10社程度です。営業3名ならTier1は20〜30社が上限の目安になります。Tier2は業界単位で束ねて当てるため50〜200社、Tier3は広告や一斉配信で面を取る対象として数百社以上を置く設計が扱いやすくなります。
ABMの成果はどのくらいで出ますか
商材の検討期間に依存します。検討期間が6か月なら、最初の90日で見えるのは接点の増加まで、商談は次の四半期、受注はさらにその先という時間軸になります。始める前にこの期待値を経営層と合意しておかないと、成果が出る前に予算が止まります。
ABM専用のツールは必須ですか
立ち上げ期には必須ではありません。既存のCRMに会社単位のプロパティを追加し、スプレッドシートでリストを管理する形で1〜2四半期は回せます。リストが数百社を超えて手作業が追いつかない、匿名の企業行動を継続的に取りたい、広告をリスト単位で配信したい、といった状況になってから検討すれば間に合います。
営業が1〜2名の会社でもABMはできますか
できますが、Tier1を10社以下に絞ることが前提です。少人数の組織ほど対象を広げたくなりますが、ABMは対象を絞ることでしか効果が出ません。むしろ営業が少ない会社のほうが、誰を追うかの合意形成が早く済むという利点があります。

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