BtoBのLinkedIn活用|日本市場でやるべきかの判断と運用設計

BtoBのLinkedIn活用|日本市場でやるべきかの判断と運用設計

LinkedInをBtoBマーケティングに使うべきか。この問いに対する情報の多くは、LinkedIn運用の支援を提供している企業から発信されています。当然ながら結論は「活用すべき」に着地します。しかし日本市場での実態を見ると、成果が出る企業と時間だけを消費する企業がはっきり分かれます。

分かれ目は運用の巧拙ではありません。顧客層がそもそもLinkedInにいるかどうかで、ほぼ決まります。国内の中小企業を顧客とする商材でLinkedInに時間を投じても、接触したい相手がそこにいないという構造は運用では覆せません。やらない判断も含めて検討する必要があります。

この記事では、向く条件と向かない条件、3つの使い方と着手順、企業ページより個人アカウントが届く理由と運用設計、広告を出すべきかの判断、直接アプローチの線引き、採用との兼用までを扱います。日本国内でBtoB事業を営む企業を想定しています。

日本市場でLinkedInが向く条件、向かない条件

顧客層が利用しているかがすべてです。運用の工夫では埋まりません。

日本のLinkedInは、海外と比べると利用の性格が異なります。ビジネス目的の情報収集の場として日常的に開かれているというより、転職や採用の文脈、あるいは外資系企業とIT業界を中心とした一部の層で使われている、というのが実態に近い状態です。この前提を踏まえずに始めると、投じた工数が回収できません。

判断は、自社の顧客層がそこにいるかどうかで行います。

自社の状況判定理由
外資系企業や海外法人が顧客向く意思決定者が日常的に利用している
IT・SaaS業界が主要顧客向く利用率が他業界より明確に高い
海外展開を検討している向く国外への接点として機能する
採用も同時に強化したい向くマーケと採用で同じ運用を兼用できる
国内の製造業・建設・小売が顧客向かない意思決定層の利用が限定的
地域密着型の商材向かない地理でのターゲティングが機能しにくい

向かないと判断した場合、無理に取り組む必要はありません。同じ工数を検索広告やコンテンツ、あるいは展示会に振り向けたほうが成果は読めます。チャネル全体の中での位置づけはBtoBリード獲得施策一覧で整理しています。

判断に迷う場合は、実際に確認する方法があります。自社の既存顧客のうち、担当者や決裁者が何名LinkedInに登録しているかを検索で数えてみてください。20社調べて数名しか見つからないのであれば、見込み客の分布も同様と考えて差し支えありません。この確認は30分で終わり、判断材料としては十分な精度があります。

逆に、既存顧客の担当者が高い割合で登録している場合は、その層に届く場が存在するということです。この場合は着手する価値があります。ターゲット定義そのものが曖昧な場合は、先にICPの設定方法を整理してください。

3つの使い方と、どれから始めるか

オーガニック発信・広告・直接アプローチの3つがあり、着手順が決まっています。

LinkedInの活用は大きく3つに分かれます。それぞれ必要な工数もリードの性質も違うため、同時に始めず順序を決めます。

1番目 オーガニック発信 個人アカウントからの投稿。 費用ゼロで始められる 成果までは3〜6ヶ月。 まずここで反応の有無を確かめる 反応がなければ広告も効かない 2番目 直接アプローチ つながり申請とメッセージ。 Sales Navigatorで対象を絞る 即効性はあるが、やり方を誤ると 印象を損なう 発信の実績があると通りやすい 3番目 広告 役職・業種・企業規模で 精緻にターゲティングできる ただしクリック単価は他媒体より 高くなる傾向がある 最後に検討する ※ 順序を飛ばして広告から始めると、   訴求が定まらないまま予算を消費する
図1:LinkedIn活用の3手段と着手順

オーガニック発信から始める理由は、費用がかからないことに加えて、自社のメッセージが刺さるかを検証できるためです。ここで反応がまったく得られない訴求は、広告で配信しても同じ結果になります。数ヶ月の投稿で反応の傾向が掴めれば、そのまま広告のクリエイティブに転用できます。

直接アプローチを2番目に置くのは、発信の実績があるほうが受け入れられやすいためです。プロフィールを見たときに何も投稿がないアカウントからのメッセージと、業界の知見を継続的に発信しているアカウントからのメッセージでは、返信率が明確に変わります。

広告を最後に置くのは、費用の問題です。LinkedIn広告は役職や業種でのターゲティング精度が高い一方、クリック単価は検索広告やSNS広告より高くなる傾向があります。訴求が固まっていない状態で始めると、検証にかかる費用が膨らみます。広告全体の設計順序はBtoB広告運用ガイドで扱っています。

企業ページより個人アカウントが届く

日本のLinkedInでは、企業ページのフォロワーは増えにくく、投稿も広がりにくい構造があります。

多くの企業がまず企業ページを作り、そこで投稿を始めます。しかし数ヶ月続けても、フォロワーが数十人から増えず、投稿への反応もほとんどないという状態になります。これは運用の問題というより、利用者の行動によるものです。

LinkedInの利用者は、企業をフォローするより人をフォローします。タイムラインに流れてくるのは、つながりのある個人の投稿と、その人が反応した投稿です。企業ページの投稿は、明示的にフォローされていなければ表示されません。

企業ページの投稿 フォロワーにしか届かない ・そもそもフォローされにくい ・企業の発信は宣伝と見なされる ・反応が広がりにくい 存在させる意味はあるが主軸にしない 個人アカウントの投稿 つながりの、そのまた先まで届く ・誰かが反応すると、その人の  つながりにも表示される ・個人の見解として読まれる ・プロフィールから会社に辿れる 経営者・現場責任者のアカウントが主軸 企業ページだけを運用して 「反応がない」と判断するのは早い
図2:企業ページと個人アカウントの届き方

企業ページを作らないという意味ではありません。会社情報の受け皿として、また広告出稿の要件としても必要です。ただし投稿の主軸を企業ページに置くと、労力に対して反応が得られません。

主軸になるのは、経営者や現場責任者の個人アカウントです。誰かが投稿に反応すると、その人のつながりにも表示されるため、フォロワー数を超えて広がる可能性があります。そして投稿を見た人はプロフィールから会社に辿り着けます。

この構造は、担当者個人に依存するという弱点も生みます。発信している人が退職すればその資産は失われます。複数名で発信する体制にする、投稿内容を社内で共有しておくといった対策は必要です。

個人発信の運用設計

週2回、実務で得た具体を書きます。宣伝と一般論はどちらも読まれません。

個人アカウントでの発信は、続けられる形にすることが最優先です。理想的な頻度より、実際に回せる頻度を選びます。

頻度は週2回を基準にします。毎日投稿できる人は続けて構いませんが、週1回を下回るとタイムラインで存在を認識されにくくなります。逆に無理に毎日投稿しようとして3週間で止まるより、週2回を半年続けるほうが結果が出ます。

内容は実務で得た具体に絞ります。読まれない投稿には共通点があり、自社サービスの宣伝と、どこかで読んだような一般論の2つです。前者は明らかに広告として処理され、後者は情報として価値がありません。

書く材料は、日々の実務の中にあります。

  • 商談で聞かれた質問と、その場での回答:同じ課題を持つ人が読みます
  • 実際に試して失敗した施策と、その原因:成功例より読まれます
  • 数字の目安:「この規模の企業では通常この程度」といった相場観は、公開されている情報が少ないため価値があります
  • 業界の動きに対する自分の解釈:ニュースの紹介ではなく、それが実務に何をもたらすかを書きます

投稿の最後に自社サービスへの誘導を毎回入れないでください。宣伝アカウントと認識された時点で、以降の投稿が読まれなくなります。

長さは、スクロールを止めて読める程度に抑えます。冒頭の2行で内容が想像できないと、そこで読まれません。結論を先に書き、詳細を後に置く構成が機能します。

成果の見え方も理解しておく必要があります。投稿から直接問い合わせが来ることは稀で、多くの場合は「以前から投稿を見ていた」という形で、後になって商談の場面で出てきます。この遅効性を前提に、短期の反応だけで判断しないでください。コンテンツ全体の設計との関係はBtoBコンテンツマーケ戦略の立て方で扱っています。

発信を続ける体制の作り方はBtoBオウンドメディアの運用体制が参考になります。ペースを工数から逆算する考え方は共通です。

広告を出すべきかの判断

ターゲティング精度は高い一方、単価も高くなります。少額での検証には向きません。

LinkedIn広告の最大の特徴は、役職・業種・企業規模・保有スキルといった属性でターゲティングできることです。「従業員500名以上の製造業の、部長職以上」といった指定が可能で、これは他の媒体では実現しにくい精度です。

一方で、この精度と引き換えにクリック単価は高くなる傾向があります。検索広告と同じ感覚で予算を組むと、想定より早く消化します。

観点LinkedIn広告検索広告
接触する相手属性で指定した層能動的に検索した層
検討段階潜在層が中心顕在層が中心
クリック単価高い傾向相対的に低い
成果までの期間長い短い
向く目的認知と接点づくり需要の刈り取り

この違いから、判断の指針が導けます。検索広告での刈り取りがまだ設計できていない段階で、LinkedIn広告に予算を割くのは順序が逆です。まず顕在層を確実に取れる状態を作り、そのうえで潜在層への接点として検討します。

出稿する場合は、いきなりフォーム送信を目的にしないでください。潜在層に対して初回接触でフォーム入力を求めても反応しません。まず資料のダウンロードやウェビナーの申込といった、負荷の低い行動から設計します。

広告の効果測定では、クリック単価ではなく商談化率まで見る必要があります。属性で絞っている分、リードの質は高くなる可能性がありますが、それを確認しないまま単価だけで判断すると誤ります。

直接アプローチの線引き

つながり申請から即座に営業メッセージを送る運用は、短期的にも中長期的にも損をします。

Sales Navigatorなどを使うと、条件に合う人物を検索してつながり申請を送れます。この即効性が魅力ですが、やり方を誤ると印象を損ないます。

最も避けるべきは、つながりが承認された直後に定型の営業メッセージを送る運用です。受け取る側からすると、つながる目的が営業だったと分かるため、以降の関係が作れません。加えて、こうしたメッセージが増えると、そもそもつながり申請自体が承認されにくくなります。

大量のつながり申請や自動化ツールでの一括送信は、プラットフォームの利用規約に抵触する可能性があります。運用を決める前に、必ず最新の規約を確認してください。

機能させるには、順序を作ります。

  1. まず投稿で認知される:相手のタイムラインに何度か表示されている状態を作ります
  2. 相手の投稿に反応する:形式的な反応ではなく、内容に対する具体的なコメントを残します
  3. つながり申請にひとこと添える:なぜつながりたいのかを1〜2文で書きます。定型文は使いません
  4. 承認後すぐに営業しない:最低でも数週間は、情報提供や相手の投稿への反応にとどめます

この順序は時間がかかりますが、BtoBの商談は関係の上に成立します。急いで送った100通より、丁寧に作った10件の関係のほうが商談になります。獲得したリードを商談に変える設計はBtoB商談化率を上げる7つの施策、営業への引き渡し基準はMQL・SQLの定義と設計方法で扱っています。

採用との兼用で工数を回収する

日本のLinkedInは採用文脈が強いため、マーケ単独より兼用のほうが投資判断が通ります。

LinkedIn運用の工数は小さくありません。個人アカウントでの発信を週2回続けるだけでも、月に数時間はかかります。マーケティングの成果だけで正当化しようとすると、成果が出るまでの数ヶ月を耐えられないことがあります。

ここで有効なのが採用との兼用です。日本のLinkedInは採用の文脈で使われている割合が高く、発信を見て応募につながることは実際に起こります。マーケティングと採用の両方の目的で運用すれば、同じ工数で2つの成果を狙えます。

兼用する場合、投稿内容を分ける必要はありません。実務の具体を書いた投稿は、見込み客にとっては専門性の証明になり、求職者にとっては働く場所の解像度を上げる材料になります。むしろ採用向けに「働きやすい職場です」といった内容を書くと、どちらにも刺さらなくなります。

社内で予算や工数の承認を取る際も、マーケティングと採用の両方の担当部署から支持を得られると通りやすくなります。単独部署の施策として提案するより、現実的な進め方です。

逆に言えば、採用でもLinkedInを使う予定がなく、かつ顧客層の利用も限定的であれば、優先度は低いということになります。冒頭の判断表に戻って検討してください。

チャネルの選定や優先順位について相談したい場合は、顧客層と現在のリソースを前提にご相談いただけます

まとめ

BtoBのLinkedIn活用で押さえるべき点を整理します。

  • 顧客層が利用しているかで決まる。運用の工夫では埋まらない
  • 既存顧客20社の担当者が登録しているかを検索で数えれば、30分で判断できる
  • 着手順はオーガニック発信、直接アプローチ、広告。順序を飛ばさない
  • 企業ページの投稿は広がりにくい。主軸は経営者や現場責任者の個人アカウント
  • 発信は週2回。実務で得た具体を書く。宣伝と一般論はどちらも読まれない
  • 広告はターゲティング精度が高い代わりに単価も高い。検索広告での刈り取りが先
  • つながり申請の直後に営業メッセージを送らない。規約と印象の両面で損をする
  • 採用と兼用すると工数の投資判断が通りやすくなる

LinkedInは、合う企業には強く効き、合わない企業には何も返ってこないチャネルです。始める前に自社が前者かどうかを確かめることが、最も費用対効果の高い作業になります。

チャネル選定のご相談

やるべきかの判断からご相談いただけます

「LinkedInを始めるべきか判断がつかない」「運用しているが反応がない」といった状態を、顧客層と現在のリソースから具体化します。他チャネルとの優先順位を含めてご提案します。

よくある質問

日本のBtoBでLinkedInは効果がありますか。
顧客層によります。外資系企業や海外法人、IT・SaaS業界が主要顧客であれば効果が期待できます。一方で国内の製造業や建設、小売を顧客とする場合、意思決定層の利用が限定的なため成果は出にくくなります。既存顧客20社の担当者がLinkedInに登録しているかを検索で数えると、30分で判断できます。
企業ページと個人アカウントはどちらを運用すべきですか。
投稿の主軸は個人アカウントです。LinkedInの利用者は企業より人をフォローする傾向があり、企業ページの投稿はフォロワーにしか届きません。個人の投稿は、誰かが反応するとその人のつながりにも表示されるため、フォロワー数を超えて広がります。企業ページは会社情報の受け皿と広告出稿の要件として作っておけば足ります。
投稿の頻度はどれくらいが適切ですか。
週2回を基準にしてください。週1回を下回るとタイムラインで認識されにくくなります。ただし無理に毎日投稿して3週間で止まるより、週2回を半年続けるほうが結果につながります。内容は実務で得た具体に絞り、自社サービスの宣伝と一般論は避けてください。
LinkedIn広告はいくらから始められますか。
金額そのものより順序が重要です。クリック単価が他媒体より高くなる傾向があるため、検索広告での刈り取りがまだ設計できていない段階で予算を割くのは順序が逆になります。出稿する場合も、初回接触でフォーム送信を求めず、資料ダウンロードやウェビナー申込といった負荷の低い行動から設計してください。
つながり申請からの営業アプローチは有効ですか。
承認直後に定型の営業メッセージを送る運用は避けてください。つながる目的が営業だったと受け取られ、関係が作れなくなります。まず投稿で認知され、相手の投稿に具体的なコメントを残し、申請にひとこと添えるという順序を踏んでください。なお大量申請や自動化ツールの利用は規約に抵触する可能性があるため、最新の規約を確認してください。