BtoBのパートナー営業|契約しても売れない構造と立ち上げ設計

BtoBのパートナー営業|契約しても売れない構造と立ち上げ設計

代理店契約を10社と結んだのに、案件が上がってくるのは1社だけ。あるいは契約から半年経っても1件も動かない。パートナー営業の相談では、契約数と売上がまったく連動していない状態から始まることがほとんどです。

原因を報酬率の低さに求めても解決しません。パートナー企業の営業担当は、自社商材以外に何十もの商材を持っています。その中から自社を選んで提案してもらうには、覚えやすく、売りやすく、自分の数字になることが揃っている必要があります。契約は入口にすぎません。

この記事では、取り組むべきかの判断、契約しても売れない構造、実績がない状態で最初の1社を作る方法、提携の型と報酬設計、立ち上がりの見極めまでを扱います。これからパートナー経由の販売を始める企業を想定しています。

パートナー営業に取り組むべきかの判断

直販の型ができていない段階で始めると、教えられないまま任せることになります。

パートナー営業は、直販の延長ではなく別の事業活動です。相応の工数がかかるため、着手のタイミングを誤ると直販の足を引っ張ります。

状況判定理由
直販で受注の型ができている着手できる教える内容が言語化されている
直販では届かない業界・地域がある向くパートナーの顧客基盤を借りる意味がある
導入に他社の支援が必要な商材向く実装や運用を担う相手と組む必然性がある
直販の受注がまだ安定しないまだ早い売り方が定まらず、教えられない
人手が足りないから任せたい向かない立ち上げには直販以上の工数がかかる

最後の行が重要です。「自社の営業リソースが足りないからパートナーに任せる」という動機で始めると、ほぼ失敗します。パートナーに売ってもらうには、教育・資料整備・案件同行が必要で、立ち上げ期の工数は直販より多くなります。

直販の型ができているかは、受注に至る流れを他人に説明できるかで判断してください。誰がどんな課題を持っているときに、何を見せると決まるのか。ここが言語化できていなければ、パートナーには伝えられません。自社の勝ちパターンの整理はBtoBマーケティング戦略の立て方で扱っています。

契約したのに売れない構造

意思決定するのは会社ですが、売るのは現場の営業担当個人です。

契約は経営層や事業責任者と結びます。しかし実際に顧客へ提案するのは、パートナー企業の現場の営業担当です。この2者の関心はまったく違います。

契約する人 経営層・事業責任者 新しい収益源になるか。 既存事業と相性がよいか ここが合意すれば契約は結べる この2者の関心は別物 売る人 現場の営業担当 数十の商材を持っている中で、 なぜこれを提案するのか ・説明できるほど覚えているか ・自分の担当顧客に当てはまるか ・自分の評価や数字になるか 3つ揃わないと提案されない やるべきこと 契約後に、現場の営業担当へ 直接届く設計を作る ※ 契約締結をゴールにすると、ここが抜ける ※ 報酬率を上げても、覚えていなければ売れない
図1:契約する人と売る人の関心の違い

報酬率を上げれば売ってもらえると考えるのは、3つ目の「自分の数字になるか」だけを見ている状態です。そもそも商材を覚えていなければ、どれだけ報酬が高くても提案の場面で思い出されません。

優先順位は、覚えやすさ、売りやすさ、報酬の順です。覚えやすさとは、一言で説明できることです。「何をする商材か」を10秒で言えない商材は、現場では扱われません。

売りやすさとは、自分の担当顧客の中に該当する相手がいると分かることです。「従業員100名以上の製造業で、営業が5名以上いる会社」のように具体的な条件を渡せば、営業は自分の顧客リストと照合できます。

実績がない状態で最初の1社を作る

大手から当たらず、顧客層が重なる同規模の企業から始めます。

パートナー営業の最初の壁は、組んでくれる相手が見つからないことです。実績のない商材を扱うリスクを、相手も負いたくありません。順序があります。

  1. 既存顧客の中から探す:自社の商材を使っていて成果が出ている企業が、同業に紹介してくれるケースがあります。最も通りやすい入口です
  2. 顧客層が重なる同規模の企業に当たる:大手代理店は既存の主力商材があり、実績のない商材に工数を割きません。自社と近い規模の企業のほうが動きます
  3. まず紹介契約から始める:いきなり再販契約を求めず、案件を紹介してもらう形から入ります。相手の負担が小さく、合意が得やすくなります
  4. 1社目で型を作る:うまくいった進め方を記録し、2社目以降の提案材料にします。「すでに1社で回っている」という事実が、次の交渉を大きく楽にします

最初の1社は成果より学習のために作ります。何が伝わらないのか、どこで案件が止まるのかを掴むことが目的です。

共催ウェビナーやイベントの共同開催から関係を作る方法もあります。いきなり販売の話をせず、まず一緒に何かをやってみて、相性を確認してから提携の話に進むほうが自然です。

共催ウェビナーから関係を作る方法は共催ウェビナーの進め方で扱っています。いきなり販売の話をせず、一緒に何かをやってみるほうが自然に進みます。

提携の型と報酬設計

型によってパートナーの関与度と必要な支援量が変わります。紹介から始めるのが現実的です。

パートナーの役割必要な支援
紹介案件を渡すだけ。商談は自社小さい
取次商談に同席。契約は自社と顧客
再販パートナーが販売主体。契約も持つ大きい
共同提供導入支援や運用まで担う最も大きい

立ち上げ期は紹介型から始めます。パートナー側の負担が小さく、自社が商談を担当するため、何が響いて何が響かないかを直接学べます。再販型に進むのは、紹介経由の受注が安定してからで構いません。

報酬の水準は型によって変わります。紹介型であれば案件の初年度売上の10〜20%程度、再販型では商材の粗利率に応じてより高い比率になるのが一般的です。重要なのは水準そのものより、支払いのタイミングと条件が明確なことです。「受注時に一括」なのか「入金確認後」なのか、解約が発生した場合はどうなるのか。ここが曖昧だと信頼を損ないます。

あわせて、案件の重複をどう扱うかを先に決めます。自社の営業とパートナーが同じ顧客に接触した場合の優先順位を決めておかないと、必ず揉めます。登録制にして先に申請したほうを優先する形が一般的です。

マーケティング側が用意するもの

パートナーの営業が「そのまま使える」状態にして渡します。

パートナーの営業担当は、自社商材のために資料を作りません。渡されたものをそのまま使います。つまり、渡すものの質がそのまま提案の質になります。

1. 対象顧客の条件 最優先 「従業員100名以上の製造業で 営業5名以上」のように具体的に 自分の顧客リストと照合できる粒度で 2. 一言の説明 10秒で言い切れる形にする。 覚えられなければ提案されない 機能ではなく解決する課題で言う 3. そのまま使える資料 自社のロゴを入れずに使える 紹介用の数枚を用意する 分厚い製品資料は使われない 4. 案件を渡す先の明示 誰に、どの形式で連絡すれば 案件が渡るのかを1行で 手続きが面倒だと渡されない ※ 1と2が抜けている企業が最も多い
図2:パートナーの営業に渡す4つのもの

1の対象顧客の条件が最も重要です。ここが曖昧だと、パートナーの営業は自分の顧客の中に該当者がいるかを判断できず、提案の候補にすら上がりません。自社のターゲット定義がそのまま使えます。整理の方法はICPの設定方法で扱っています。

3の資料は、自社が商談で使うものとは別に用意します。パートナーの営業が自分の提案の中に差し込む形になるため、数枚で完結する紹介用が適しています。資料の作り分けの考え方はホワイトペーパーの作り方も参考になります。

定期的な情報提供も必要です。四半期に1回、新しい事例や機能追加を共有する場を設けると、商材が忘れられにくくなります。逆に契約後に何も接触しなければ、半年で存在ごと忘れられます。

立ち上がりの指標と見極め

契約数ではなく、案件を出したパートナーの数を見ます。

パートナー営業の進捗を契約社数で管理すると、実態が見えなくなります。10社と契約していても、案件が出るのは1社ということが普通に起こるためです。見るべきは次の順です。

  • 案件を1件以上出したパートナーの数:契約数ではなくこちらを追います
  • 初回案件までの日数:契約から最初の案件が出るまでの期間。長い相手は動いていません
  • 案件の質:パートナー経由の商談化率と受注率を、直販と分けて記録します

契約から6ヶ月間まったく案件が出ないパートナーは、多くの場合そのまま動きません。関係を切る必要はありませんが、支援の工数をかける先を、動いているパートナーに寄せてください。

パートナー経由のリードは直販と質が異なるため、営業への渡し方も分けます。基準の作り方はMQL・SQLの定義と設計方法、営業側との連携設計はマーケ・セールス連携の仕組み作りで扱っています。チャネル全体の中での位置づけはBtoBリード獲得施策一覧を参照してください。

パートナー制度そのものの設計について相談したい場合は、直販の状況と商材の性質を前提にご相談いただけます

パートナー向けの勉強会と継続的な接触

契約後に何もしなければ、半年で商材ごと忘れられます。定期的な接点を仕組みにします。

パートナー企業の営業担当は、自社商材以外に多数の商材を持っています。一度説明を受けただけの商材は、時間とともに記憶から抜けていきます。契約後の接触を仕組みにしないと、書面上のパートナーが増えるだけになります。

初回の勉強会で決まる

契約後、最初に行う説明会が最も重要です。ここで現場の営業担当に直接届かなければ、以降の接点は作りにくくなります。経営層との契約締結の場とは別に、現場向けの時間を必ず設けてください。

内容は詰め込みすぎないでください。90分の説明で全機能を網羅しても、翌週には何も残っていません。伝えるのは3点に絞ります。どんな課題を持つ企業に向くか、一言でどう説明するか、案件が出たらどこに連絡するか。この3点が定着すれば十分です。

資料は当日に配って終わりにせず、後から参照できる場所に置きます。営業担当が顧客との会話で思い出したときに、すぐ確認できる状態が必要です。

四半期に1回の接触

初回以降、四半期に1回のペースで情報提供の場を作ります。新しい事例、機能の追加、市場の動き。内容は多くなくて構いません。存在を思い出してもらうことが目的です。

この場は一方的な説明にせず、パートナー側の状況を聞く時間にもしてください。「最近どんな相談が増えていますか」と聞くと、自社の商材が刺さる場面が見つかることがあります。逆にパートナー側が売りにくいと感じている点も、この場でしか出てきません。

案件が出たパートナーを優先する

すべてのパートナーに同じ工数をかける必要はありません。案件を出しているパートナーには手厚く、動いていないパートナーには最低限の情報提供にとどめます。

案件を出したパートナーには、その案件の結果を必ずフィードバックしてください。紹介した先が受注したのか、失注したのか、失注ならなぜか。これを返すことで、次の紹介の精度が上がります。返さないと、紹介した側は自分の行動が正しかったのか分からないままになり、次が続きません。

成功事例を横展開する

1社のパートナーで受注が出たら、その経緯を他のパートナーにも共有します。どんな企業に、どんな場面で提案したら決まったのか。抽象的な説明より、具体的な1件のほうが動き方が伝わります。

この共有は、パートナー同士が競合しない場合に限ります。同じ地域や業界を担当するパートナー同士では、案件の取り合いにつながる情報は出せません。担当領域が重ならない設計にしておくと、この横展開がやりやすくなります。

担当者の異動に備える

パートナー企業の担当者が異動すると、それまでの関係が一度リセットされます。窓口が1人だけの状態は脆いため、可能であれば複数名と接点を持ってください。勉強会に複数名が参加する形にしておくと、1人が抜けても継続できます。

契約書で決めておくこと

提携の条件は口頭やメールでの合意にとどめず、書面にしてください。特に金額と期間に関わる部分は、担当者が交代したときに認識が失われます。

最低限、次の項目は明記します。報酬の料率と算定の基準、支払いのタイミング、案件の重複が発生した場合の優先順位、契約の期間と更新の条件、解約時に進行中の案件をどう扱うか。最後の項目は見落とされがちですが、関係が終わるときに揉める原因になります。

あわせて、自社の商材をどう表示してよいかも決めます。パートナー企業のサイトにロゴを掲載する場合の条件、自社名を出しての営業活動を認めるかどうか。ここが曖昧だと、意図しない形で自社が紹介されることがあります。

契約書の内容は、締結後に担当者へ共有してください。経営層同士で交わした条件を現場が知らないまま案件が動くと、報酬の認識がずれて後から問題になります。特に報酬の算定基準と支払い時期は、実際に案件を持ってくる担当者にとって最も関心のある情報です。

更新のタイミングでは、条件の見直しも検討します。1年間の実績を踏まえて、料率や対象範囲を調整する場を設けておくと、双方にとって納得感のある関係が続きます。

まとめ

BtoBのパートナー営業で押さえるべき点を整理します。

  • 直販の受注の型ができていない段階では着手しない。教える内容が言語化できていない
  • 人手が足りないから任せる、という動機で始めない。立ち上げには直販以上の工数がかかる
  • 契約する人と売る人は別。現場の営業担当に直接届く設計を作る
  • 優先順位は、覚えやすさ・売りやすさ・報酬の順。報酬率を上げても覚えていなければ売れない
  • 最初の1社は既存顧客からの紹介か、顧客層が重なる同規模企業から。紹介契約から始める
  • 対象顧客の条件を、相手が自分の顧客リストと照合できる粒度で渡す
  • 進捗は契約社数ではなく、案件を1件以上出したパートナーの数で見る

パートナー営業は、契約を増やす活動ではなく、動くパートナーを1社ずつ作る活動です。1社目で型ができれば、2社目以降の立ち上がりは大きく速くなります。

販売チャネルのご相談

着手すべきかの判断から制度設計までご相談いただけます

「契約はあるが案件が動かない」「そもそも取り組むべきか判断がつかない」といった状態を、直販の状況と商材の性質から具体化します。まだ検討段階でも問題ありません。

よくある質問

パートナー営業はいつから始めるべきですか。
直販で受注の型ができてからです。誰がどんな課題を持っているときに何を見せると決まるのかを、他人に説明できる状態が前提になります。ここが言語化できていないと、パートナーに教えることができません。自社の営業リソースが足りないから任せたい、という動機で始めるのは避けてください。
契約したのに案件が出てきません。
報酬率ではなく、現場の営業担当に届いているかを確認してください。契約は経営層と結びますが、実際に提案するのは現場の担当者です。商材を10秒で説明できる形と、対象顧客の具体的な条件が渡っていなければ、提案の候補にすら上がりません。
報酬はどのくらいが相場ですか。
紹介型で案件の初年度売上の10〜20%程度、再販型では商材の粗利率に応じてより高い比率になるのが一般的です。ただし水準そのものより、支払いのタイミングと条件が明確であることのほうが重要です。受注時か入金後か、解約が発生した場合の扱いはどうなるかを先に決めてください。
最初のパートナーはどう見つけますか。
まず既存顧客の中から探してください。自社の商材で成果が出ている企業が、同業に紹介してくれるケースが最も通りやすい入口です。次に、顧客層が重なる同規模の企業に当たります。大手代理店は既存の主力商材があり、実績のない商材には工数を割きません。
パートナーの進捗はどう管理すべきですか。
契約社数ではなく、案件を1件以上出したパートナーの数を追ってください。10社と契約していても案件が出るのは1社ということが普通に起こります。あわせて契約から初回案件までの日数を記録し、6ヶ月動かないパートナーには支援工数をかけすぎないようにします。