カスタマージャーニーマップを作ったものの、共有されたきりファイルが開かれていない。半年後には情報が古くなり、次の企画でまた新しく作り直す。
使われない原因は作り方の巧拙ではありません。何に使うマップかを決めないまま作り始めるため、必要な粒度が定まらず、結果として誰の役にも立たない中途半端な精度に落ち着きます。加えて、BtoC向けのテンプレートをそのまま持ち込むと、BtoBの購買では機能しない項目に時間を使うことになります。
マップ作りを頼まれた担当者や、作ったきり開かれていないマップを抱えている担当者にとって、役に立つかどうかは描き込む量ではなく、何に使うマップかを作り始める前に絞れているかにかかっています。用途が決まれば必要な粒度も決まり、BtoC向けテンプレートの感情の欄を無理に埋める必要もなくなります。
目次
カスタマージャーニーマップが使われなくなる理由
使われなくなる理由は、粒度が用途と合っていないこと、登場人物が担当者1人だけのこと、作った後に更新されないことの3つです。
理由1:粒度が用途と合っていない
マップを作る目的がコンテンツ企画なのか、施策の抜け漏れ確認なのか、営業との共通言語づくりなのかで、必要な細かさは変わります。目的を決めずに作ると、細かすぎて使いにくいか、粗すぎて示唆が出ないかのどちらかになります。
理由2:登場人物が担当者1人になっている
BtoBの購買には複数の人が関わります。情報を集める担当者、承認する上長、要件を確認する情報システム、費用を見る経理。それぞれ見ている論点が違うのに、マップが担当者1人分しかないと、実際の検討の詰まりどころが表現されません。
理由3:作って終わりで更新されない
営業が商談報告に「情報システムから連携方式を聞かれた」と書いても、マップを持っているマーケ担当がそれを追記する流れがなければ、マップには反映されません。1年後には現実とずれた資料になり、参照されなくなります。作成そのものより、更新の仕組みがないことが問題です。
ペルソナ設計との関係も整理しておきます。ペルソナが「誰か」を定義するのに対し、ジャーニーマップは「その人が時間の経過とともにどう動くか」を表します。ペルソナが曖昧なままマップだけ作っても機能しません。先にBtoBペルソナの設定方法とICPの設定方法を済ませてください。
用途を先に決める|何に使うマップか
用途によって必要な粒度が変わります。3つの用途のどれかに絞ってから作り始めます。
「顧客理解を深めるため」という目的でマップを作ると、必ず使われない資料になります。何かの判断に使うと決めてから作ります。
| 用途 | 必要な粒度 | 使う人 |
|---|---|---|
| コンテンツ企画の設計 | 段階ごとの疑問を具体的な言葉で | マーケ担当 |
| 施策の抜け漏れ確認 | 段階と接点の対応だけで足りる | マーケ責任者 |
| 営業との共通言語づくり | 社内の障害と関係者を厚く | マーケと営業 |
最も費用対効果が高いのは2つ目の「施策の抜け漏れ確認」です。マーケ責任者が四半期の施策計画を立てる前に、段階ごとに自社の接点があるかを並べるだけで、どの段階が手薄かが見えます。粒度が粗くてよいため、実務上の目安で半日あれば作れます。
1つ目のコンテンツ企画に使う場合は、各段階で読者が抱く疑問を実際の言葉で書き出す必要があります。ここが抽象的だと記事の企画に落ちません。疑問の一覧ができたら、コンテンツマーケ戦略のテーマ選定に渡して記事の企画にします。
3つ目は最も工数がかかりますが、マーケと営業の認識をそろえる効果があります。この場合は営業を巻き込んで一緒に作ってください。マーケだけで作ったマップを営業に見せても、現実と違うと言われて終わります。
BtoBでは「感情」ではなく「社内の障害」を書く
個人の感情の起伏より、その段階で社内の誰が何を言うかのほうが実務で使えます。
一般的なカスタマージャーニーマップのテンプレートには「感情」の列があります。段階ごとに期待や不安がどう動くかを書く欄です。これはBtoCの購買では有効ですが、BtoBではほとんど使われません。
BtoBの検討が止まるのは、担当者の感情が下がったときではなく、社内で誰かが止めたときです。上長が費用対効果を問う、情報システムがセキュリティ要件を出す、経理が予算計上の時期を指摘する。この社内の力学のほうが、検討の進み方を決めます。感情の列を「社内の障害」に置き換えてください。
感情の列を社内の障害に置き換えると、マーケティングが用意すべきものが具体的に見えてきます。段階3で費用対効果を問われるなら、導入企業の成果を数字で示した資料が要ります。段階4でセキュリティ要件が出るなら、その回答を1枚にまとめておく必要があります。感情の起伏を書いても、こうした資料の必要性は見えてきません。
段階3を越える材料としては、投資対効果を説明できる形の資料が有効です。担当者が上長に費用の話を持ち込む前に、投資対効果の試算表を渡しておくと、段階3で止まる件数が減ります。
登場人物は担当者1人ではない
担当者・上長・関連部署は、それぞれ違う論点を見ています。少なくとも3者分を書きます。
マップを担当者1人分しか作らないと、社内の障害が表現できません。企業規模にもよりますが、最低でも3者を想定します。
担当者以外の3者には、自社から直接情報を届けられません。上長や情報システムが読むのは、担当者が転送した資料か、担当者の口頭説明です。つまりマーケティングが用意すべきなのは、担当者が社内で使える材料ということになります。
担当者経由でしか届かない構造は、コンテンツやLPの設計にも直結します。たとえば担当者が上長への相談の前日に、手元の資料をそのまま転送できるか。読者本人を説得するだけでなく、その人が社内で説明できる状態にするという観点です。
検討が年単位に及ぶ場合は、途中で窓口が替わる前提も必要です。担当者の異動に備えて複数の関係者とつながる方法もあわせて確認してください。
作成の手順
用途を1つに決め、直近の受注顧客3社と営業に聞いてから、5段階前後の表に接点・疑問・社内の障害を埋め、接点のない段階を特定します。想像で書くと現実とずれます。
手順は次のとおりです。実務上の目安として半日から1日で初版を作り、そのあと商談で検証しながら精度を上げます。
- 用途を1つに決める:コンテンツ企画・抜け漏れ確認・共通言語づくりのどれかを選びます
- 直近の受注顧客3社に聞く:どこで自社を知り、社内で誰に相談し、何を聞かれたかを確認します。受注直後であれば記憶が新しく、協力も得やすくなります
- 営業に聞く:商談で毎回聞かれる質問、検討が止まる典型的な箇所を確認します
- 段階を5つ前後に分ける:細かく分けすぎないでください。段階が10を超えると使いにくくなります
- 段階ごとに、接点・疑問・社内の障害を埋める:感情の列は作りません
- 自社の接点がない段階を特定する:ここが施策の穴です
想像だけで作らないでください。既存顧客3社への聞き取りがあるだけで、マップの内容はまったく違うものになります。
2の聞き取りは、導入事例の取材と兼ねると効率的です。事例取材の質問設計と重なる部分が多いため、1回の取材で両方の材料が得られます。
作った後|施策の穴を見つける
マップの価値は、接点がない段階を可視化することにあります。
完成したマップで最初にやることは、各段階に自社の接点があるかを確認することです。多くの企業では、情報収集の段階に記事があり、比較検討の段階に資料があり、その先が空白になっています。
上長への相談や関連部署の確認という段階に接点がないのは、そこがマーケティングの守備範囲外と見なされているためです。営業の失注報告に「上長に費用対効果を聞かれて止まった」が続いていれば、その段階が空白だという合図です。しかしこの段階で検討が止まるのであれば、そこに材料を置くと検討が先に進みます。導入企業の成果をまとめた資料、セキュリティ要件への回答集、導入までのスケジュール例。いずれも作れるものです。
マップは半年に1回見直してください。商談で新しく出た論点を追記するだけで構いません。更新されないマップは、1年で現実からずれた資料になります。
穴が見つかったら、リード獲得施策の候補から埋める施策を選び、段階ごとにナーチャリングのシナリオで接触の順番を決めます。マップの段階をファネルの各段階に対応させておくと、どの数字で穴が埋まったかを確かめられます。営業とマップを共通言語にするなら、マーケと営業の定例で段階の定義を合わせます。
自社のジャーニーをどう定義すべきか整理したい場合は、既存顧客の検討経緯を前提にご相談いただけます。
段階2の社内説明を通す材料としては、ページ側の設計も役に立ちます。担当者が上長に転送するのはランディングページのURLか営業資料のPDFなので、その2つに費用対効果と導入手順の記載があるかを確認します。
洗い出した穴が特定のページではなくサイト全体の構成に起因している場合は、個別の改修よりも作り直しの検討が必要になります。複数の段階で同じ導線が途切れているなら、サイト全体を作り直すかの判断に進みます。
ジャーニーの各段階を記事で受けると決めたら、段階どうしをつなぐのは内部リンクの仕事になります。記事ごとに次の段階の記事を1本ずつ送り先として決め、検討段階をつなぐ内部リンクを張ります。
既存顧客への聞き取りの進め方
直近6か月以内に受注した顧客の窓口担当者3人に、課題に気づいてから決裁までに起きたことを、時系列で30分ほど聞きます。
ジャーニーマップを想像で作ると、社内で共有した瞬間に営業から「実際は違う」と言われて終わります。避けるには、実際の購買を経験した人に聞くしかありません。
誰に聞くか
対象は直近6ヶ月以内に受注した顧客の担当者です。時間が経つほど記憶が曖昧になるため、新しいほど精度が上がります。3社に聞ければ十分な材料になります。
可能であれば、受注に至らなかった相手にも聞きたいところですが、これは現実には難しくなります。代わりに営業から失注理由を聞き取り、そこで補います。検討が止まった箇所は、マップ上で最も重要な情報です。
聞く相手は、実際に社内で動いた担当者です。決裁者に聞くと「良いと思ったので決めた」という話になり、その手前の検討プロセスが見えません。日々やり取りしていた窓口の担当者が最も詳しく語れます。
何を聞くか
質問は時系列で組みます。所要時間は30分で足ります。
- 最初に課題を認識したのはいつ、どんなきっかけですか:ここがジャーニーの起点になります
- まず何を調べましたか:検索した言葉、見たサイト、聞いた相手を具体的に聞きます
- 社内で最初に相談したのは誰ですか:上長か、同僚か、別部署か
- そのとき何を聞かれましたか:この回答がそのまま「社内の障害」の欄になります
- 他にどこを検討しましたか:比較対象と、比較した軸
- 最終的に決め手は何でしたか:ここは自社の強みの検証になります
- 検討が止まりかけた場面はありましたか:最も価値のある質問です
7つ目を必ず聞いてください。順調に進んだ案件でも、どこかで足踏みした瞬間があります。そこが施策を打つべき場所です。
どう聞くか
「弊社のサービスについてどう思われますか」といった評価を求める質問は避けます。相手は気を遣って良いことを言うため、材料になりません。あくまで事実として何が起きたかを聞きます。
導入事例の取材と兼ねると効率的です。どちらも受注直後が依頼しやすく、聞く内容も重なります。1回の取材で、事例記事の材料とジャーニーマップの材料の両方が得られます。
録音は許可を取ったうえで行ってください。後から複数社の回答を並べて共通点を探す作業があるため、記憶に頼ると精度が落ちます。
3社の回答を並べる
聞き取りが終わったら、3社の回答を段階ごとに並べます。共通している部分がジャーニーの骨格になり、ばらついている部分は顧客セグメントの違いを示しています。
たとえば「社内で最初に相談した相手」が3社とも上長であればその流れを前提にできますが、1社だけ情報システムであれば、企業規模によってプロセスが違う可能性があります。この場合は無理に1本のマップにまとめず、セグメントを分けることを検討します。
作ったマップをどう共有するか
凝った図にせず、1枚の表で共有します。更新できる形式が条件です。
ジャーニーマップというと、デザインされた1枚絵を想像しがちです。しかし実務で使うなら、体裁より更新のしやすさを優先してください。
表形式で十分
縦に段階、横に「接点」「疑問」「社内の障害」「自社の施策」を並べた表があれば、必要な情報は表現できます。表計算ソフトやドキュメントツールで作れば、誰でも追記できます。
デザインツールで作った画像は、見た目は良くても更新されません。半年後に商談で新しい論点が出たとき、画像を作り直す人がいないためです。結果として古い情報のまま放置されます。
営業がいつでも見られる場所に置く
共有フォルダの奥に置くと参照されません。営業が日常的に開く場所、たとえばCRMの中や、チームのドキュメント一覧の上位に置いてください。
あわせて、更新の担当と頻度を決めます。半年に1回、マーケと営業で30分の見直しの場を設けるだけで、内容の鮮度が保てます。
最初から完成させない
すべての段階を埋めようとすると、想像で書く部分が増えます。聞き取りから分かった範囲だけを埋め、空欄は空欄のまま共有してください。空欄があること自体が「ここは分かっていない」という情報になります。
まとめ
BtoBのカスタマージャーニーマップは、用途を1つに決め、受注顧客3社への聞き取りをもとに「社内の障害」を書き込み、接点のない段階を見つけるために作ります。
- 用途を1つに決めてから作る。決めないと粒度が定まらず使われない
- 最も費用対効果が高いのは「施策の抜け漏れ確認」。粗い粒度で半日で作れる
- 感情の列は作らない。代わりに段階ごとの「社内の障害」を書く
- 登場人物は担当者1人ではない。上長・情報システム・経理まで想定する
- 上長以降には担当者を通してしか情報が届かない。担当者が社内で使える材料を用意する
- 想像で書かず、直近の受注顧客3社への聞き取りから始める
- 段階は5つ前後に留める。10を超えると使いにくくなる
- 半年に1回、商談で出た論点を追記する
マップは完成させることが目的ではありません。接点のない段階を1つ見つけて、そこに施策を置ければ、それだけで作った価値があります。
設計のご相談
検討が止まる箇所の特定からご相談いただけます
「マップを作ったが活用できていない」「どの段階で検討が止まっているか分からない」といった状態を、既存顧客の検討経緯と商談の実態から具体化します。まだ作っていない段階でも問題ありません。
よくある質問
- カスタマージャーニーマップとペルソナはどう違いますか。
- ペルソナは「誰か」を定義するもの、ジャーニーマップは「その人が時間の経過とともにどう動くか」を表すものです。順序としてはペルソナが先です。誰の話かが曖昧なままマップを作ると、段階ごとの記述も曖昧になり使えません。
- BtoBのマップに感情の列は必要ですか。
- 不要です。BtoBの検討が止まるのは担当者の感情が下がったときではなく、社内で誰かが止めたときです。感情の代わりに「その段階で社内の誰が何を言うか」を書いてください。上長が費用対効果を問う、情報システムがセキュリティ要件を出す、といった具体を書くと、用意すべき材料が見えてきます。
- 段階はいくつに分けるべきですか。
- 5つ前後を目安にしてください。10を超えると参照するのが面倒になり、使われなくなります。細かさが必要なのは特定の段階を深掘りするときだけで、全体像を見るマップでは粗くて構いません。
- 作成にどのくらい時間がかかりますか。
- 初版は半日から1日で作れます。ただし既存の受注顧客3社への聞き取りと、営業へのヒアリングを先に行ってください。この材料がないまま想像で作ると、現実とずれたマップになります。精度は商談で検証しながら上げていきます。
- 作ったマップをどう活用すればよいですか。
- まず各段階に自社の接点があるかを確認してください。接点がない段階が施策の穴です。多くの企業では、上長への相談や関連部署の確認という段階が空白になっています。ここに導入効果の資料やセキュリティ要件への回答集を置くと、検討が止まらなくなります。