展示会の準備で、配布物とノベルティの決定はたいてい最後に回されます。バックパネルとブースのレイアウトが固まったあと、残った予算で「何を配るか」を決める。その結果、去年と同じ名入れのボールペンと、営業が普段使っている会社案内が段ボールで届き、当日は袋に詰めて手渡すだけの作業になります。
ただ、配布物の役割は当日で終わりません。配布物は人を集めるための道具ではなく、持ち帰ったあとに自社を思い出してもらうための道具です。この前提に立つと、選ぶものも、渡す相手も、予算の見方も、効果の測り方も変わります。
この記事は、BtoB企業で展示会の出展を担当するマーケティング責任者と経営者に向けて、配る目的の分け方、紙の資料をどこまで削るかとQRコードの使い分け、ノベルティを使用頻度で選ぶ基準、1商談あたりで見る予算、誰に何を渡すかの線引き、そして効果をどこまで測れるかを整理します。ブースの造作そのものや当日のトーク設計は扱いません。
目次
配布物は集客の道具ではなく、想起の道具
配布物の成否は、当日いくつ配れたかではなく、展示会の2週間後に相手の机の上に残っているかで決まります。評価軸をここに置き換えるところから始めます。
来場者の側に立つと、展示会の1日はこう進みます。会場に入り、目についたブースに寄り、名刺を渡し、袋を受け取る。これを何十回か繰り返して、夕方には紙袋が重くて持てなくなっている。翌日、会社に戻って机の上で袋の中身を出し、いる/いらないを1分で仕分けます。この1分で、受け取ったものの大半は捨てられます。
つまり、配布物には二段階の関門があります。第一の関門は当日のブース前で「受け取ってもらえるか」、第二の関門は翌日の机の上で「残してもらえるか」です。多くの出展社は第一の関門しか設計していません。ここが、配布物にかけた費用が回収されない一番の理由です。
BtoBでは、思い出してもらう瞬間が数か月後に来る
BtoBの商材は、展示会で名刺交換した相手がその場で買うことはほとんどありません。相手の検討が動き出すのは、社内で予算が付いたとき、担当者が変わったとき、既存の仕組みが限界を迎えたときです。それは展示会の3か月後かもしれないし、翌年度かもしれません。
その瞬間に自社が候補として浮かぶかどうかが、展示会の投資回収を左右します。メールでのフォローは重要ですが、届いても開かれるとは限りません。一方、相手の机の上に置かれているものには開封率という概念がなく、目に入るかどうかだけです。この非対称性が、配布物を「想起の道具」として設計する理由になります。
逆に言えば、来場者を立ち止まらせるためだけにノベルティを使うと、名刺は増えても商談は増えません。この構造については展示会で成果が出ない理由で扱っているとおりですが、本記事は「では何をどう配るのか」という具体側を扱います。
配布物の評価軸を「当日の配布数」から「2週間後に机の上に残っているか」に置き換えると、選ぶ基準が一本に定まります。
何のために配るのかを先に決める
配布物には4つの異なる役割があります。1つのアイテムに全部を担わせようとすると、どれも中途半端になります。
「展示会で配るもの」と一括りにされていますが、実際には役割が分かれています。先に分けておかないと、選定会議が「これは目立つか」「もらって嬉しいか」という感覚論に流れます。次の4つで整理してください。
役割1|足を止める
通路を歩いている人の視線を引き、ブースの前で速度を落としてもらうための役割です。ただし、この役割を担う配布物は最も「対象外を呼ぶ」リスクが高い部分でもあります。人気の景品を積み上げれば足は止まりますが、止まったのが自社の対象かどうかは無関係です。
役割2|会話のきっかけを作る
立ち止まった相手と最初の一言を交わすための役割です。ここは物そのものよりも、渡すときの言葉が効きます。「これ、机で使ってください」と手渡すだけで会話が1往復増え、袋に入れて無言で渡せばその1往復は生まれません。同じアイテムでも、渡し方次第で役割2を果たすかが変わります。
役割3|持ち帰って社内で回してもらう
BtoBで最も軽視されている役割です。展示会に来ているのは多くの場合、決裁者ではなく情報収集の担当者です。その担当者が社内で「こういうのがありました」と共有する瞬間に、手元に見せられるものがあるかどうかで、話が次に進むかが変わります。この役割を担えるのは紙の資料であり、ノベルティではありません。
役割4|後日、思い出してもらう
検討が動き出した数か月後に、候補として浮かぶための役割です。ここを担えるのは、相手のオフィスで使われ続けるものだけです。単価の高さは関係ありません。使用頻度と、社名が視界に入る位置にあるかどうかで決まります。
| 役割 | 効くタイミング | 向くもの | 渡す相手 | 代替できるか |
|---|---|---|---|---|
| 1 足を止める | 通路を歩いている数秒 | 遠くから見て分かる一点 | 通行者全員 | できる(バックパネル・声かけ) |
| 2 会話のきっかけ | 立ち止まった直後 | 渡しながら一言添えられるもの | 足を止めた人 | できる(トーク設計) |
| 3 社内で回す | 帰社後から1週間 | 要点が1枚で分かる資料 | 会話が成立した相手 | できない |
| 4 後日の想起 | 1〜3か月後 | 机で毎日使う実用品 | 話し込んだ相手 | できない |
この表で重要なのは右端の列です。役割1と役割2は、配布物がなくても代替できます。バックパネルの見え方、スタッフの立ち位置、最初の一言。これらで足は止まりますし、会話も始まります。一方、役割3と役割4は物がないと成立しません。担当者が上司に見せるものがなければ社内で回りませんし、机の上に何もなければ数か月後に思い出す手がかりがありません。
したがって、予算が限られているときに削るのは役割1と役割2の側です。ここを削ってブースとトークで代替し、役割3と役割4に寄せる。これが本記事の基本方針になります。出展そのものの判断や当日の運用全体の組み立てについては、BtoB展示会の出展準備で扱っています。
紙の資料をどうするか|1枚に絞る判断とQRコードでの代替
会社案内とカタログをそのまま持ち込むのは、ほぼ確実に間違いです。重くて持ち帰られず、その場でも読まれません。紙は1枚に絞り、詳細はQRコードに逃がします。
会場で来場者が資料を立ち読みする光景は、ほとんど見かけません。数百社が出展する展示会では1ブースに割ける時間は数分で、その数分で厚い冊子を読むことはあり得ないからです。当日渡す紙の資料は「その場で読ませるもの」ではなく「帰ってから他人に見せるもの」だと考えてください。
1枚に絞るときに載せるもの
A4片面、多くても両面1枚。載せる情報は次の順で優先します。
- 誰のどんな課題を解くのか:機能名ではなく、相手の業務の言葉で書く
- それをどうやって解くのか:仕組みが1文で分かる説明と、画面や現物のイメージ1点
- 導入の形と前提:既存環境との関係、必要な体制、期間の目安
- 次の一歩:詳細資料のQRコードと、問い合わせ先
載せないのは、機能一覧、会社沿革、拠点一覧、代表挨拶です。これらは持ち帰った担当者が上司に見せる場面で一切機能しません。上司が知りたいのは「これは何で、うちの何が良くなるのか」だけです。
既存の営業資料を流用したくなりますが、目的が違います。営業資料は商談の進行を助ける設計、展示会の1枚はその場にいない第三者に説明されるための設計です。資料そのものの作り分けはBtoB営業資料の作り方とホワイトペーパーの作り方で扱っています。
QRコードで代替する場合の設計
詳細な資料はQRコードに逃がすのが合理的です。印刷費と輸送費が下がり、内容の更新もできます。ただし、QRコードの設計を間違えると、ただの「読まれないリンク」になります。判断すべきは次の3点です。
その場で読ませるのか、持ち帰ってから読ませるのか。会場でスキャンさせると、相手は端末を取り出し通信を待つことになります。混雑した会場では通信が不安定なことも多く、この数十秒が会話の時間を食います。原則は、紙にQRコードを刷って持ち帰ってもらう設計です。QRコードだけをパネルに掲示して紙を配らない方式は、その場でスキャンしなかった人との接点が完全に消えます。
遷移先でフォームを挟むのか、挟まないのか。フォームを挟めばリード情報は取れますが、名刺交換済みの相手にもう一度入力させることになり、離脱します。展示会の場合、すでに名刺という接点があるので、フォームを挟まず直接資料を見せたほうが読まれます。誰が見たかを知りたい場合は、フォームではなく展示会専用のURLを使い、アクセスの総量を見る形にします。
展示会ごとにURLを分けるかどうか。分けてください。同じURLを複数の展示会と広告とサイトで使い回すと、あとからどの接点の反応だったのかが分からなくなります。
QRコードの遷移先を展示会ごとに分けずに1本にすると、後からどの展示会からのアクセスだったのかを切り分けられなくなります。
| 条件 | 紙で渡す | QRコードに逃がす |
|---|---|---|
| 相手が社内で見せる必要がある | 向く | 向かない |
| 情報量が多い、更新頻度が高い | 向かない | 向く |
| 価格や条件が個別見積もり | 向かない | 向く(問い合わせに接続) |
| 動画やデモ画面を見せたい | 向かない | 向く |
| その場で会話が成立しなかった相手 | 向く(軽い1枚) | 向かない(読まれない) |
| 持ち帰りの重量を減らしたい | 1枚に絞る | 向く |
結論としては、紙1枚とQRコードの併用が基本形です。紙は社内で回るために、QRコードは詳細と更新のために存在します。どちらか一方に寄せる判断が必要になるのは、出展規模が極端に小さいか、対象が数十社に限定されている場合だけです。自社の商材でどこまで紙を削れるか判断がつかない場合は、配布物の構成についてご相談ください。
ノベルティの選び方|単価ではなく使用頻度で決める
ノベルティは「もらって嬉しいか」ではなく「オフィスで使われ続けるか」で選びます。単価と効果は比例しません。
選定会議で最初に出るのは「予算はいくらか」、次が「何が人気か」です。この順番だと、単価帯の中で最も見栄えのするものが選ばれます。想起という役割から逆算するなら、次の3つの問いを先に通してください。
問い1|オフィスで使われるか
自宅に持ち帰られるものは、想起にはつながりません。家族が使う日用品、リラックス用品、食品の類は、受け取った瞬間の満足度は高いのですが、相手の業務の時間には登場しません。検討が動き出すのはオフィスの机の前ですから、そこに置かれていないものは、あってもなくても同じです。
判断は単純です。「これは会社の机の上か、引き出しの中に置かれるか」。ノーなら役割4は担えません。役割1や役割2として使うのは構いませんが、その場合は単価を上げないことです。
問い2|捨てられないか
捨てられる理由は、使い道がないことと、置き場所に困ることの2つです。かさばるもの、机の上で場所を取るもの、他社の同種のものが既にあるものは、使い道があっても捨てられます。数百社が同時に出展しているので、来場者の机には同じカテゴリのものが何個も届いているからです。ここで効くのは「置き換わるもの」を選ぶ発想です。相手が既に持っているものより少しだけ使いやすければ入れ替わって定着し、同等なら封も切られません。
問い3|社名が視界に入り続けるか
使われていても、社名が見えなければ想起にはつながりません。ただし、ロゴを大きくすればいいわけではありません。ロゴが目立ちすぎるものは、社外の打ち合わせや来客時に出しづらくなり、結果として引き出しにしまわれます。狙うのは「毎日視界に入るが、他人に見せても違和感がない大きさ」です。
社名だけでなく、覚えてほしい言葉を1つ添える手もあります。会社名を思い出せなくても、扱う領域が思い出せれば検索で辿り着けるからです。ただし文字を詰め込むと安っぽくなるので、入れるのは社名と短い一語までです。
単価を回数で割ると判断が変わる
ノベルティを1個いくらで見ると、安いものを選ぶ圧力が働きます。ここを「1回視界に入るあたりいくらか」で見ると、判断が反転します。仮に単価500円のものが3か月にわたって週5日使われれば、視界に入る回数はおよそ60回です。1回あたり8円強。一方、単価3,000円でも一度使って引き出しに入れば、1回あたり3,000円です。
この計算式を社内報告に使う必要はありません。ただ、選定の場で「これは何日生き残るか」を問いかけるだけで、見栄えのする一点物より、地味でも毎日触るものが選ばれるようになります。
単価を上げる前に、そのアイテムが相手の机の上で何日生き残るかを見積もってください。回数で割ると、地味な実用品のほうが安くなります。
なお、どのカテゴリのアイテムが正解かは、来場者層と会場によって変わります。技術者が多い展示会と、経営層が多い展示会では、机の上の風景が違います。ここは断定できる話ではないので、上の3つの問いを自社の対象者に当てて判断してください。
誰に渡すかを分ける|全員配りと、話し込んだ相手だけ
同じものを全員に渡す設計が、名刺の質を落とします。配布物は2層に分け、渡す判断をスタッフに持たせます。
配布物を1種類にすると運用は楽になりますが、単価を上げられなくなります。全員に渡す前提だと想定配布数に単価を掛けた額が予算になるためです。結果として、想起に効くレベルのものは誰にも渡らなくなります。
2層に分ける
ライト層は、通行者や短い接触で終わった相手に渡すものです。軽く、かさばらず、単価は低い。役割1と役割2を担います。ここでの目的は名刺を増やすことではなく、ブースの前で速度を落としてもらうことです。
ヘビー層は、会話が成立した相手にだけ渡すものです。1枚資料と、使用頻度の高い実用品をセットにします。数は限られるので、単価を上げられます。役割3と役割4を担うのはこちらです。
運用上のポイントは、ヘビー層のアイテムをブースの奥に置き、通路から見えないようにすることです。見えていると「あれください」と言われ、判断の余地がなくなります。渡すかどうかはスタッフが会話の中で判断する。この判断基準は事前に共有しておきます。たとえば「業務の課題を1つ以上具体的に話してくれた相手」といった、行動で観測できる基準にしておくと、スタッフごとのぶれが減ります。
名刺と引き換えにする設計をどう考えるか
「名刺をいただいた方にプレゼント」という設計は、展示会では定番です。枚数は確実に増えます。ただし、増えるのは対象外の名刺です。ノベルティ目当ての来場者は、渡す名刺の枚数を最大化する動機で動いているので、自社の商材への関心とは無関係に名刺を出します。
その結果、翌日から始まるフォローの工数が、関心のない相手に配分されます。展示会リードを商談化する活用方法で扱っているとおり、獲得直後の数日をどう使うかが結果を分けるので、ここで工数が薄まるのは致命的です。
推奨するのは「引き換え」ではなく「会話の結果として渡す」形です。引き換えを謳う掲示を外し、スタッフが会話の終わりに手渡す。名刺は会話の中で自然に交換されるので、条件にする必要はありません。例外は出展目的が認知の獲得に振り切られ、後日のフォローを前提にしない場合ですが、BtoBでこの設計が正当化される場面は多くありません。
なお、高額な品物を「名刺と引き換え」「アンケート回答と引き換え」で提供する設計は、条件の付け方によっては景品に関する規制や主催者側の出展規定に触れる可能性があります。金額や条件の線引きは案件ごとに判断が必要なので、単価を上げる場合は社内の法務担当と主催者の出展規定の両方を事前に確認してください。ここは記事の一般論で断定できる領域ではありません。
在庫はライトとヘビーで別々に見積もる
ライト層は通行量から、ヘビー層は想定する会話件数から数を出します。同じ係数で計算すると、ヘビー層が大量に余ります。そのうえで、日付・展示会名・年度をアイテムに刷らないでください。刷った瞬間、その会期でしか使えない在庫になります。1枚資料も同様で、展示会名を入れるのはQRコードの遷移先URLだけにしておけば、印刷物自体は次回も使えます。
予算の考え方|総額ではなく1商談あたりで見る
配布物の予算を総額で見ると、必ず「安いほうがいい」に着地します。1商談あたりいくらかに直すと、判断が変わります。
配布物の費用は、出展費用全体の中では小さな比率です。だからこそ「そこは削ろう」も「どうせ小さいから」も根拠なく通ります。どちらも、総額で見ているから起きます。
1商談あたりに直す
見るべきは、配布物の総額を、その展示会で見込む商談件数で割った値です。名刺の枚数ではなく商談件数で割るのが重要です。名刺で割ると、単価の安いものを大量に配る設計が有利に見えてしまい、本来の目的から離れます。
| 項目 | 考え方 | 計算例(数値は仮定) |
|---|---|---|
| ライト層の費用 | 想定通行接触数 × 低単価 | 1,000個 × 80円 = 80,000円 |
| ヘビー層の費用 | 想定会話件数 × 実用品の単価 | 200個 × 800円 = 160,000円 |
| 1枚資料の費用 | 印刷部数 × 単価+制作費 | 1,200枚 + 制作 = 90,000円 |
| 配布物の合計 | 上記の合算 | 330,000円 |
| 見込む商談件数 | 過去実績または保守的な仮置き | 20件 |
| 1商談あたり | 合計 ÷ 商談件数 | 16,500円 |
この16,500円という数字を、自社の1商談あたりの獲得コストや、平均受注単価と並べて見ます。並べた瞬間に、削るべきか積むべきかの議論が具体的になります。総額33万円が高いか安いかは誰にも判断できませんが、1商談16,500円が高いか安いかは、自社の数字と比べれば判断できます。
相場ではなく、変動要因で見積もる
「ノベルティの相場はいくらか」に一律の答えはありません。同じアイテムでも条件次第で単価は数倍動きます。相場の数字を鵜呑みにするより、何で変動するかを押さえ、複数社に同条件で見積もりを取るほうが確実です。
| 変動要因 | 単価が上がる方向 | 単価が下がる方向 |
|---|---|---|
| 発注数量 | 少量、追加発注 | まとまった数量の一括発注 |
| 名入れの方法 | 多色刷り、特殊加工、回り込み | 1色、既定の印刷範囲 |
| アイテムの種類 | 別注、形状のオリジナル化 | 既製品への名入れ |
| 納期 | 短納期、特急対応 | 会期の2〜3か月前に発注 |
| 付帯作業 | 個包装、袋詰め、会場直送 | まとめ納品、自社で袋詰め |
| デザイン | 制作を外部に依頼 | 既存のロゴデータを使う |
実務的に効きやすいのは納期です。会期の直前に決めると、選べるアイテムが減り、特急料金が乗ります。配布物の決定を「バックパネルの次」ではなく「出展を決めた直後」に前倒しするだけで、同じ予算でできることが増えます。
出展費用全体の構造と、どの費目を削ると獲得が落ちるかについては、展示会の出展費用で整理しています。配布物だけを単独で最適化しても、全体の配分がずれていれば効果は出ません。
削る順番を決めておく
予算が足りないときに削る順番は、役割の代替可能性で決まります。ライト層の単価、ライト層の数量、ヘビー層の数量の順で削り、1枚資料とヘビー層の単価は最後まで守る。この2つだけが他の手段で代替できないからです。自社の配分が妥当か外から見てほしい場合は、展示会まわりの設計についてご相談ください。
効果をどう見るか|ノベルティ単体の効果は測れない
ノベルティ単体の効果は測れません。測れないことを認めたうえで、代わりに何を見るかを決めるのが実務です。
「あのノベルティは効果があったのか」に正確に答える方法はありません。想起という現象を観測する手段がないからです。数か月後に問い合わせをくれた相手は、ブースでの会話も、フォローメールも、広告も、検索で見つけた記事も同時に受け取っています。そこからノベルティの寄与だけを切り出すことはできません。
この構造は展示会に限らず、複数接点にまたがる施策すべてに共通します。何をどこまで測れるかの考え方はBtoBマーケの効果測定で扱っています。ここでは、測れないことを前提にした運用の話をします。
配布数を目標にしない
効果が測れないと、代わりに測れるものが目標になります。それが配布数です。しかし配布数を目標に置いた瞬間、現場は「配ること」を仕事にします。会話をせずに袋を渡す動きが増え、対象外の名刺が増え、翌日からのフォローが薄まる。測れる指標を目標にしたせいで、測りたかった成果が減る典型的な事故です。配布数は在庫管理のために記録はしますが、評価には使わないと事前にスタッフへ明言してください。言わなければ、現場は配布数で評価されると考えて動きます。
代わりに見る4つ
- 展示会専用URLへのアクセス数と、その時系列:会期中に集中するのか、翌週以降に伸びるのかで、紙が持ち帰られて機能したかがある程度わかります
- 初回フォロー時の反応率:相手が展示会での接触を覚えているかどうかは、返信内容に表れます。「どちらの展示会でしたか」と聞かれる率が高ければ、当日の接点が弱かったということです
- ヘビー層を渡した相手と、それ以外の商談化率の差:これが最も実務的です。渡した相手をその場で記録し、CRM上でフラグを立てておけば、翌月以降に比較できます
- 商談化した相手への定性ヒアリング:「何がきっかけで思い出しましたか」を営業が聞く。数字にはなりませんが、次回の選定に直接効きます
3つ目のフラグ管理は、名刺をスキャンする段階で「会話が成立した/していない」の1項目を持たせるだけで実現できます。当日の運用に1動作増えるだけで、次回の出展計画で「ヘビー層の数量をどう置くか」を実績ベースで決められるようになります。
ただし、この比較で出た差をそのまま「ノベルティの効果」と読んではいけません。ヘビー層を渡した相手は、そもそも会話が成立した相手です。商談化率が高いのは当然で、ノベルティのおかげとは限りません。読み取れるのは「会話が成立した相手の比率がどれくらいで、そこからの商談化がどの水準か」であり、それが分かれば十分に次の設計に使えます。フォロー側の設計はBtoB展示会リードのフォロー設計で扱っています。
配らないほうがよいもの|やらない判断
配布物には、原則として避けるべき類型があります。予算を使わない判断も、選択肢に入れてください。
高額な景品と抽選企画
抽選や高額品は確実に人を集めますが、集まるのは景品に関心のある人です。名刺の枚数は増え、獲得単価の計算上は効率が良く見えますが、翌日以降のフォロー工数がそこに吸われます。加えて条件の付け方によっては規制や出展規定に触れる可能性があり、確認の手間もかかります。
誰にでも喜ばれる人気アイテム
「対象を選ばず喜ばれるもの」は、裏を返せば対象を絞れないということです。来場者全体に効くものは、自社の対象にも対象外にも同じだけ効きます。母集団の構成比は変わらないので、名刺は増えても有効な名刺の比率は動きません。むしろ、対象者がノベルティの列に埋もれて会話の時間が取れない分、悪化することがあります。
その場で消費される飲食物
会場で消費されるものは、会期が終わった時点で存在しないので、想起にはつながりません。ただし役割2としては有効で、手に持ってもらうことで滞在時間が伸び、会話が続きます。この目的に限定するなら使えますが、想起用の予算をここに回さないでください。
厚いカタログと会社案内の大量印刷
前述のとおり持ち帰られず、その場でも読まれません。既に在庫があるという理由で持ち込むケースがありますが、置き場所と輸送のコストを考えると、持ち込まないほうが安いこともあります。
そもそも配らないという判断
出展の形によっては、ノベルティを用意しない選択が合理的です。対象が明確に絞られた小規模な専門展、事前アポイントで来場者が確定している出展、小間が小さく通行者を捌く余力がない出展。これらではライト層は不要で、1枚資料とQRコード、ヘビー層の実用品を少量だけ用意すれば足ります。
「他社が配っているから」は理由になりません。配布物は目的から逆算して決めるものであり、周囲に合わせて決めるものではないからです。用意しないと決めたなら、その分の予算はブースの見え方か、事前の接触か、終了後のフォロー体制に回してください。そのほうが商談に近いところで効きます。
まとめ
配布物は集客の道具ではなく、想起の道具です。この一点を決めると、選定も予算も運用も一貫します。
配布物の役割は4つに分かれます。足を止める、会話のきっかけを作る、社内で回してもらう、後日思い出してもらう。このうち前の2つはブースとトークで代替できますが、後の2つは物がないと成立しません。予算が限られるときは、代替できる側から削ります。
紙の資料は1枚に絞り、詳細はQRコードに逃がします。1枚の役割は、その場にいない決裁者に説明されることです。機能一覧や会社沿革ではなく、誰のどんな課題をどう解くかを、相手の業務の言葉で書きます。QRコードは展示会ごとにURLを分け、フォームは挟まないのが基本です。
ノベルティは単価ではなく使用頻度で選びます。オフィスで使われるか、捨てられないか、社名が視界に入り続けるか。この3つを通してから、単価の話をします。渡す相手はライト層とヘビー層に分け、ヘビー層は会話が成立した相手にだけ手渡す。名刺との引き換えは、枚数と引き換えに翌日以降のフォロー工数を失う設計です。
予算は総額ではなく1商談あたりで見て、相場ではなく変動要因で見積もる。効果は測れないことを認めたうえで、会話が成立した相手の比率と、そこからの商談化率を追う。そして、高額な景品、対象がぼやける人気アイテム、その場で消える飲食物、厚いカタログは配らない。配らないと決めた分の予算は、商談に近い場所へ回してください。
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展示会で「何を配るか」を、商談から逆算して決めませんか
配布物の選定は、出展の目的と対象者が決まっていれば数時間で片がつきます。自社の商材と来場者層を踏まえて、紙をどこまで削るか、ヘビー層に何を置くか、予算をどう配分するかを、外部CMOの視点で一緒に整理します。
よくある質問
- 展示会のノベルティは何を配るのが正解ですか?
- アイテム名で正解が決まることはありません。判断するのは3点です。相手のオフィスで使われるか、置き場所に困らず捨てられないか、社名が毎日視界に入るか。この3つを通ったものであれば、カテゴリは問いません。逆に、この3つのどれかで落ちるなら、どれだけ人気のアイテムでも想起にはつながりません。来場者層によって机の上の風景は違うので、自社の対象者を思い浮かべて判断してください。
- ノベルティの予算はいくらが相場ですか?
- 一律の相場は示せません。同じアイテムでも、発注数量、名入れの色数と範囲、既製品か別注か、納期、個包装の有無で単価が数倍動くためです。相場を探すより、総額を見込み商談件数で割った「1商談あたりいくらか」に直して、自社の獲得コストや受注単価と並べて判断してください。見積もりは、同じ条件を書いた依頼文で複数社に同時に出すのが確実です。
- 会社案内やカタログは配らなくてもいいですか?
- そのまま配るのは避けたほうがよいです。重くて持ち帰られず、その場でも読まれません。代わりに、A4で1枚の資料を展示会用に作ります。載せるのは、誰のどんな課題を解くのか、どうやって解くのか、導入の形、そして詳細資料へのQRコードと問い合わせ先です。この1枚は「持ち帰った担当者が社内で見せるための資料」なので、機能一覧や会社沿革は不要です。
- 名刺と引き換えにノベルティを渡すのは問題ありませんか?
- 枚数は増えますが、増えるのは商材に関心のない名刺です。翌日から始まるフォローの工数がそこに配分されるので、商談件数はむしろ落ちることがあります。引き換えを掲示せず、会話の結果としてスタッフが手渡す形に変えるのをおすすめします。なお、高額な品物を条件付きで提供する場合は、景品に関する規制や主催者の出展規定に触れる可能性があるため、社内の法務担当と主催者の規定を事前に確認してください。
- ノベルティの効果はどうやって測ればいいですか?
- ノベルティ単体の効果は測れません。想起には複数の接点が同時に効いているためです。代わりに、展示会専用URLへのアクセスの時系列、初回フォロー時に相手が接触を覚えているかどうか、会話が成立した相手とそれ以外の商談化率の差、この3つを見ます。名刺をスキャンする段階で「会話が成立したか」の1項目を記録しておくと、翌月以降に比較できるようになります。配布数は在庫管理のために記録はしますが、評価指標には使わないでください。