BtoBの価格設定|SaaS以外の商材で価格をどう組み立てるか

BtoBの価格設定|SaaS以外の商材で価格をどう組み立てるか

価格が決まっていない状態で、マーケティングだけを先に動かそうとする企業があります。しかし広告のターゲティングもLPの訴求も、いくらの商材を誰に売るのかが決まって初めて設計できます。価格は事業の意思決定であると同時に、マーケティングの前提条件でもあります。

ところが実務で参考にできる情報は偏っています。価格設定の解説はSaaSを前提としたものが大半で、コンサルティングや制作、運用代行、受託開発のように案件ごとに内容が変わる商材の組み立て方はほとんど語られていません。プラン表が作れない商材は、別の考え方が要ります。

この記事では、価格の3つの決め方と使い分け、案件ごとに変わる商材での価格の組み立て、最初の価格の決め方、値上げの進め方、値引き圧力への対処までを扱います。SaaS以外のBtoB商材を扱う企業を想定しています。

価格が決まらないとマーケティングは動かない

誰にいくらで売るかが定まらないと、ターゲットも訴求も決められません。

マーケティングの相談を受けたとき、施策の話に入る前に価格を確認します。価格が決まっていない、あるいは案件ごとにばらついていて基準がないという状態では、その先の設計ができないためです。

理由は3つあります。

1つ目は、ターゲットが決まらないことです。月額10万円の商材と月額100万円の商材では、届けるべき企業規模も、意思決定に関わる人も違います。価格はターゲット定義と表裏の関係にあり、片方だけを先に決めることはできません。

2つ目は、獲得にかけられるコストが決まらないことです。1件の受注から得られる利益が分からなければ、リード1件にいくらまで払えるかも計算できません。広告予算の上限は価格から逆算されます。

3つ目は、訴求が定まらないことです。同じサービスでも、安さで選ばれる価格帯と、質で選ばれる価格帯では、伝えるべきメッセージがまったく違います。価格が動くたびに訴求を作り直すことになります。

したがって、価格設定は事業側の意思決定でありながら、マーケティングの着手条件でもあります。「まず集客してから価格を考える」という順序は成立しません。ターゲット定義の整理はICPの設定方法、獲得コストの上限の考え方はBtoB広告のLTVとCAC目安で扱っています。

価格の3つの決め方と、BtoBで機能するもの

コスト基準・競合基準・価値基準の3つがあり、BtoBでは価値基準を軸に他の2つで検証します。

価格の決め方には古くから3つの型があります。それぞれ出発点が違います。

決め方出発点強み弱み
コスト基準かかる原価と工数赤字にならない顧客が感じる価値と無関係
競合基準他社の価格比較検討で外れない差別化の余地が消える
価値基準顧客が得る成果価格の上限が上がる説明が難しく、根拠が要る

結論としては、価値基準を軸に置き、コスト基準を下限、競合基準を参考値として使います。

コスト基準だけで決めると、価格は自社の効率に縛られます。作業が早くなるほど安くなるという構造は、支援サービスでは特に不合理です。習熟して短時間で成果を出せるようになった結果、報酬が下がるのでは事業が成立しません。

競合基準だけで決めると、相場の中に埋もれます。BtoBの検討では複数社が並べられるため、価格が同水準であれば他の要素で判断されます。ここで差別化の材料がなければ、結局は安いほうが選ばれます。

価値基準は、顧客がそのサービスによって得る成果から逆算する考え方です。「月30万円の支援で、月間の商談が5件増える」のであれば、1商談あたりの利益と照らして投資判断ができます。この形にすると、価格の妥当性を数字で説明できるようになります。

価値基準で決めるには、自社のサービスが顧客にもたらす成果を数字で言えることが前提になります。ここが曖昧なままだと、結局コスト基準に戻ります。

成果を数字で言えない場合、まずは既存顧客に何が変わったかを聞くところから始めます。金額に換算できなくても、「毎週3時間かかっていた作業がなくなった」という具体があれば、価値の輪郭は描けます。

案件ごとに変わる商材の価格の組み立て方

工数ベース・パッケージ・成果連動の3つの型があり、事業フェーズによって適したものが変わります。

SaaSであれば、機能とユーザー数でプランを切ればプラン表が作れます。しかしコンサルティングや制作、運用代行は、案件ごとに範囲も工数も変わります。この場合の組み立て方は3つです。

型1 工数ベース 稼働日数 × 単価 見積の根拠が明快で、範囲の変更にも 対応しやすい 効率化するほど売上が下がる。 立ち上げ期向き 型2 パッケージ 多くの場合の最適解 提供範囲を固定して定額 「戦略設計まで」「実行まで」など 段階で切る 効率化が利益になる。比較もされやすく、 サイトに載せられる 型3 成果連動 獲得件数や売上に応じる 顧客のリスクが小さく、提案は通りやすい 成果の定義と計測で揉めやすい。 自社で制御できない要因に左右される 部分的な併用に留めるのが安全 ※ 工数ベースで始め、型が見えたらパッケージへ移す
図1:案件ごとに変わる商材の価格の3つの型

立ち上げ期は工数ベースで構いません。案件ごとに何にどれだけ時間がかかるかのデータが溜まっていないため、固定価格を出すと赤字案件が生まれます。5件から10件ほど受注すると、必要な工数の傾向が見えてきます。

傾向が見えたらパッケージ型に移します。「戦略設計まで」「実行支援まで」「体制構築まで」のように提供範囲を段階で切り、それぞれに定額を置く形です。この型の利点は3つあります。効率化した分が利益になること、サイトや資料に金額を載せられること、そして顧客側も比較しやすくなることです。

成果連動は魅力的に見えますが、扱いには注意が必要です。成果の定義で揉めやすく、しかも成果は自社の努力だけでは決まりません。商材の競争力や顧客側の実行体制に左右される部分が大きいためです。導入するとしても、固定費に上乗せする形の部分的な併用に留めるのが安全です。

実際の相場感は領域によって異なります。マーケティング支援であればBtoBマーケティングコンサルの費用相場、広告運用であればBtoB広告運用代行の費用相場で、料金体系ごとの水準を整理しています。

最初の価格をどう決めるか

実績がない段階では、安く出すより範囲を狭めて相場並みで出すほうが後が楽になります。

創業間もない企業や新規サービスの立ち上げでは、価格の根拠になる実績がありません。ここで多くの企業が安さから入りますが、これは後から取り返しがつかなくなります。

安く出すことの代償

初期の顧客に安く提供すると、3つの問題が同時に発生します。

  • 値上げが困難になる:既存顧客への値上げ交渉は、新規に適正価格を提示するより何倍も難しくなります
  • 安さで選んだ顧客が集まる:価格で選ぶ顧客は、より安い選択肢が出れば移ります。関係が続きません
  • 事例として使いにくい:安く提供した案件の成果は、適正価格の提案時に説得材料になりにくくなります

代わりに範囲を狭める

実績がない段階で提案を通したいのであれば、価格を下げるのではなく提供範囲を狭めてください。「戦略設計だけを月20万円で」という形であれば、単価は保ったまま総額を下げられます。

この形には副次的な利点もあります。狭い範囲で成果を出せば、その後の拡張提案がしやすくなります。最初から広く安く受けると、成果が見えないまま関係だけが続く状態になりがちです。

初期の顧客に対して「今回は特別価格で」と伝える場合は、通常価格をあわせて明示してください。値引きであることが共有されていないと、次回以降の交渉で前提がずれます。

相場を調べる方法

競合の価格は、公開されていなくても推定できます。同業のサイトで料金を公開している企業を数社確認する、業界の費用相場をまとめた記事を読む、実際に顧客だった企業に他社の見積額を聞く。この3つで、おおよその帯は掴めます。

そのうえで、自社をその帯のどこに置くかを決めます。上限に置くなら、その根拠になる差別化要素が必要です。下限に置くなら、なぜ安くできるのかを説明できる必要があります。理由なく中間に置くと、価格で選ばれることも質で選ばれることもなくなります。

値上げの進め方

既存顧客への値上げは、時期・伝え方・移行措置の3点を設計してから実行します。

価格は一度決めたら固定というものではありません。提供内容が増えた、人件費が上がった、実績が積み上がって価値が明確になった。いずれも値上げの正当な理由です。ただし進め方を誤ると、まとまった解約が発生します。

決めること推奨理由
新規と既存の扱い新規から先に適用する新価格での受注実績ができてから既存に向かう
既存顧客への適用時期契約更新のタイミング期中の変更は約束を破る形になる
予告の時期3ヶ月前までに相手の予算計上に間に合わせる
移行措置1年間の据え置きなど長期顧客への配慮が関係を保つ
理由の説明提供内容の変化と併せて値上げ単独では納得を得にくい

順序として重要なのは、新規顧客から新価格を適用することです。新価格で受注できる実績ができてから既存顧客に向かうと、交渉の根拠を持てます。逆に既存顧客から着手すると、値上げの妥当性を示す材料がない状態で交渉することになります。

理由の説明では、値上げ単独ではなく提供内容の変化と併せて伝えます。「対応範囲を広げたうえで価格を改定します」という形であれば、受け入れられやすくなります。何も変わらずに金額だけ上がる説明は、どれだけ丁寧でも納得を得にくいものです。

一定の解約は想定してください。値上げによって離れる顧客がゼロであれば、それは値上げ幅が小さすぎたという見方もできます。重要なのは、離脱を織り込んでも収益が改善する設計になっているかです。

既存顧客への値上げは、利用状況によって通り方が変わります。追加提案と併せた設計はBtoBのアップセル・クロスセルで扱っています。

値引き圧力への対処

値引きするなら、必ず何かと引き換えにします。単純な減額は価格の根拠を失わせます。

BtoBの商談では相見積もりが前提となるため、値引きの要請は必ず発生します。ここでの対応が、その後の価格の信頼性を決めます。

最も避けたいのは、理由のない単純な減額です。提示していた金額に根拠がなかったと示すことになり、次回以降の提案でも「まだ下がる」と見なされます。対応は3つのいずれかにします。

  1. 提供範囲を減らして金額を下げる:最も健全です。価格と提供内容の対応関係が保たれます
  2. 条件と引き換えにする:年間契約、複数拠点での導入、事例掲載への協力など、こちらが得るものを設定します
  3. 値引きせず理由を説明する:金額の根拠を改めて示し、判断してもらいます。失注する案件は出ますが、価格の一貫性は保たれます

どの対応を取るかは、事前に基準として決めておいてください。商談の場で担当者が個別に判断すると、顧客ごとに条件が変わり、後から情報が共有されたときに問題になります。

値引き率を定期的に見る

四半期に1回、成約案件の値引き率の分布を確認します。半数以上の案件で値引きが発生しているなら、提示価格が市場と合っていない可能性があります。逆に値引きがまったくないのであれば、価格を上げる余地があるかもしれません。

この記録は、次の価格改定の判断材料にもなります。感覚ではなく分布で見ることで、どこに調整の余地があるかが見えてきます。

決めた価格をサイトや資料でどう見せるかは、価格そのものと同じくらい成果を左右します。提示の方法はBtoBの料金ページ、商談で使う資料への載せ方はBtoB営業資料の作り方で扱っています。

自社の価格の組み立てについて相談したい場合は、商材の性質と現在の受注状況を前提にご相談いただけます

失注理由を価格のせいにしない

失注したときに「価格が高かった」という理由が返ってくることは多くあります。ただしこれは、断る側にとって最も角が立たない説明でもあります。実際には提供内容が伝わっていなかった、成果のイメージが持てなかった、担当者が社内で説明できなかったという理由が背後にあることが少なくありません。

価格を理由に失注が続く場合は、金額を下げる前に確認してください。同じ価格帯で受注できている案件があるか。あるなら、価格ではなく伝え方の問題です。逆に同価格帯での受注が一件もないのであれば、価格と提供価値の関係を見直す必要があります。

失注理由は選択式で記録し、「価格」を選んだ案件については自由記述で具体的に何と比較したのかを残しておくと、判断の材料になります。

まとめ

BtoBの価格設定で押さえるべき点を整理します。

  • 価格はマーケティングの着手条件。決まらないとターゲットも訴求も獲得コストの上限も決められない
  • 価値基準を軸に置き、コスト基準を下限、競合基準を参考値として使う
  • 案件ごとに変わる商材は、立ち上げ期は工数ベース、型が見えたらパッケージへ移す
  • 成果連動は成果の定義で揉めやすい。部分的な併用に留める
  • 実績がない段階で提案を通したいなら、価格を下げるのではなく提供範囲を狭める
  • 値上げは新規から適用し、既存には更新時に3ヶ月前予告で向かう
  • 値引きは必ず何かと引き換えにする。単純な減額は価格の根拠を失わせる
  • 四半期に1回、値引き率の分布を確認して価格の妥当性を検証する

価格は一度決めて終わりではなく、受注の実績を見ながら調整していく対象です。値引き率の分布と失注理由を記録しておけば、次の改定は感覚ではなく数字で判断できます。

価格設計のご相談

商材の性質に合わせた価格の組み立てをご相談いただけます

「案件ごとに金額がばらついている」「値引き要請に毎回その場で対応している」といった状態を、受注実績と提供範囲から具体化します。これから価格を決める段階でも問題ありません。

よくある質問

案件ごとに金額が変わる商材でも、価格を決められますか。
決められます。立ち上げ期は稼働日数と単価による工数ベース、受注が5件から10件ほど溜まって工数の傾向が見えたらパッケージ型に移すのが実務的な流れです。パッケージ型は提供範囲を段階で切って定額を置く形で、効率化した分が利益になり、サイトや資料に金額を載せられるようになります。
実績がない段階では安く出すべきですか。
価格を下げるのではなく、提供範囲を狭めてください。安く提供すると、後の値上げが困難になり、安さで選ぶ顧客が集まり、成果を事例として使いにくくなります。「戦略設計だけを月20万円で」という形であれば、単価を保ったまま総額を下げられます。
成果連動型の報酬は導入すべきですか。
部分的な併用に留めることをおすすめします。成果の定義と計測で揉めやすく、しかも成果は自社の努力だけでは決まりません。商材の競争力や顧客側の実行体制に左右される部分が大きいためです。固定費に一部上乗せする形であれば、リスクを抑えつつ提案の通りやすさを得られます。
既存顧客への値上げはどう進めればよいですか。
新規顧客から新価格を適用し、新価格での受注実績ができてから既存顧客に向かってください。既存への適用は契約更新のタイミングとし、3ヶ月前までに予告します。長期顧客には1年間の据え置きなどの移行措置を用意すると関係が保たれます。値上げ単独ではなく、提供内容の変化と併せて説明してください。
値引きを求められたときはどうすべきですか。
理由のない単純な減額は避けてください。提示金額に根拠がなかったと示すことになります。提供範囲を減らして金額を下げる、年間契約や事例掲載への協力と引き換えにする、値引きせず根拠を説明する、のいずれかにします。どの対応を取るかは商談の場ではなく事前に基準として決めておいてください。